MAGI

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アリババ達がザガンへ旅立った翌日
旅立つ前は心配でオロオロしていたヤムライハも
今ではすっかり落ち着いてしまい
夕餉後にアッバーサの私室にピスティとともに集まり
シンドリア女子会という名の不定期の集まりを開いていた

キングサイズの寝台に女子三人で集まり
部屋つきの女官が用意してくれたお菓子と果実酒を広げる
ジャーファルに見つかれば
はしたない!!と一喝される光景だが
今日は女子会なのだ、作法など気にしては楽しめない

「それにしても、姫様の部屋は広くていいね、ベッドもフカフカだし、広いし」

そう言いながらピスティは寝台の上をごろごろと転がる

「うん、落ちなくていいよ」

そうアッバーサが言葉を紡げば
ピスティがケラケラと笑い起き上がった

「えー姫様って寝台から落ちる人?」

「うん、昔はよく落ちてたみたい」

旅先の狭い寝台で
シンドバッドと共に寝れば
必然的に体の大きな兄に押しつぶされる事を避けようと
アッバーサは無意識のうちに寝台の下へと転がり落ちているのだった
それは今から10年以上前の話だが
今思い出すと懐かしいな…とアッバーサは小さく微笑んだ

そして女子三人でお菓子を頬張りながら
果実酒を飲んだ
といっても、アッバーサは酒に弱いので
果実酒を水と氷で割り非常に薄めてから飲んでいる

「もー姫様ってば、飲みっぷりが悪いなぁ」

「そうですよ、もっと飲みましょうよ、女子会なんですし」

「いや…私お酒のむとすぐ眠ってしまうし」

先ほどからほぼストレートで酒を飲んでいた
ピスティとヤムライハがアッバーサへと絡みだす
けれどそれはいつもの女子会の光景であり
アッバーサは二人の誘いをはいはいと受け流すのだった

「そういえば、この前、新入りの文官がピスティの事を話してたわ」

「え、ないなに姫様、ピスティちゃんに気があるって?」

「うん、そんな感じの事を言ってたかも、でもピスティその人も加えたら何股になるの?」

「えー10股くらいだよ」

「それは流石に駄目でしょ」

あっけらかんとした発言に
ヤムライハとアッバーサは
少し呆れながら言葉を紡ぐ

「そんな10股もかけてどうやってデートしているのよ」

そしてごもっともな意見をヤムライハが呟けば
ピスティは自信満々に

「頑張れば何とかなる」

と凄く良い笑顔で答えたのだった

「何だか、その自信満々な笑顔…兄様を思い出すわ」

「えー私は王サマみたいに一夜の関係とかはないからね」

「はいはい、分かったから、そんな濃い話はしなくて良いから」

とアッバーサがグイグイと近寄ってきたピスティの肩を押し戻せば
ピスティは少し頬を膨らませ
不貞腐れたように言葉を紡ぐ

「っていうか、女子会なんだから、もっとこう、濃ゆ〜い話とかしようよ!!ねぇヤム!!」

「私に振らないで」

「でもお互いのそういう話って興味ない?」

「まぁ…無い事も無いけど」

とヤムライハは頬に手を当てながら
少し考えこむ様子で言葉を紡いだ

そして最終的に自らに注がれる女子二人の視線を感じ
アッバーサはいよいよマズイといった表情で話題を変えようと口を開く

「それよりも、アラジン達は大丈夫かな?」

「あら、それなら大丈夫ですよ、だってアラジンくんだもの」

「そうそう、モルたんも強いし」

「そ…そう」

そんなアッバーサの頑張りもむなしく、その話題は一瞬で終わってしまった
そしていよいよ私のターンだとばかりに
ピスティがグイグイと距離を縮め言葉を紡いだ

「で、姫様はどうなの?」

「どうって、何の事かしら」

「もちろん恋人はいるのかって事だよ」

「そんなピスティはよく10股も頑張れるわね」

「もう毎日大変なんだけど、でも皆私を愛してくれてるし、頑張るしかないなって…私は姫様の恋愛事情を聞いてるの」

何度話しを振られても
アッバーサはヒラリハラリと話題を変え
可憐にその話題をかわしていく

「でも、姫様ってもてますよね、美人だし、それなのに恋人が居ないほうがおかしいですよ」

そして次に話題を振ってきたのはヤムライハだった

「もてないわよ」

「でも、晩餐会で他国の王族や貴族から恋文を頂いてましたよね?」

「読まずに燃やしたわ」

そう笑顔で言葉を返せば
ヤムライハとピスティはお互いに顔を見合わせた後
額に手をあて大きなため息をついた

「なんって勿体無い事をしてるんです」

「そうよ、私だったら恋文をくれた人全員とつきあっちゃうわよ」

いやいや、無理でしょ
と心の中で突っ込みを入れながら
アッバーサは二人からじりじりと後ずさった

「でもどうして燃やしちゃったんですか?好みのタイプじゃなかったとか?」

「そうですよ…そういえば姫様の好みのタイプってどんなのです?」

「そんなヤムライハのタイプはどんな人?」

「私は、魔法使いのおじ様がタイプです」

「おじ様って…いくつ上までいけるの?」

「20個上くらいならいけますよ、で、姫様は?」

そしてわくわくした表情で見つめてくる
ヤムライハとピスティの視線に耐えかね
アッバーサはポツリポツリと言葉を紡いでいく

「兄様みたいな」

「ほう、王サマみたいな」

「ギラギラした男の人は恋人としては嫌」

その言葉にピスティとヤムライハはがっくりしたように
肩を落とした

「じゃあ、同じギラギラ系のシャルとマスルールもアウトだね」

そしてピスティがもっと具体的にと促すので
アッバーサはそうねぇ…と顎に手をおき
考えながら言葉を紡いでいく

「うーん…武官か文官で言ったら文官…かな」

「ほうほう」

「でも、ある程度…私と互角に戦える程度の人が良いかな」

「へー」

それってかなり強くないと無理だろう…と
ピスティとヤムライハは互いの心の中で考えていた

「あと、シンドリアに貢献してくれる人かな」

やっぱりそれが最優先条件だと
アッバーサは微笑みながら二人に告げる

「っていうか、それジャーファルさんじゃないの?」

「…へ?」

そのピスティの推理するような瞳に
アッバーサが右手に持っていた焼き菓子がポロリと零れた
そんな動揺を抑えつつ
アッバーサはどきどきしながらピスティからの言葉を待つ

「第一に、ジャーファルさんは文官でしょ」

「ええ、そうね」

ピスティの言葉にヤムライハが相槌を打っていく

「そんでもって、姫様と互角か眷属器を発動したらそれ以上に強いかも」

「そういえば、ジャーファルさんか王様くらいよね、姫様と互角に戦えるのって」

「そうそう、そして最後に、恋人の条件がシンドリアへ貢献してくれる人って所」

「ああ、それ以前ジャーファルさんも言ってたわ」

「でしょ、ヤムも覚えてた?私も衝撃的で覚えてたんだよぉ」

目の前でキャッウフフと騒ぐ女子二人を前に
アッバーサは白い肌を更に白くさせ固まっていた

何故、女子とはこうも推理力に長けており恐ろしい生き物なのだろうか

「じゃあ、もうこれは確定だね、で片思いなの?もう恋人なの?どっち?」

そうニコニコしながら迫ってきたピスティへと
アッバーサは心の中で謝罪しながら
その額へと右手の2指3指を揃えて突きつければ
ピスティは眠るようにその場へと崩れ落ちてしまった

そして次にアッバーサはじりじりと後ずさるヤムライハへと右手を翳し
重力魔法で行動を封じる

「ごめんね、ヤム」

そう呟きながらヤムライハの額へもピスティと同じように右手を突きつければ
ヤムライハも眠るようにその場へと崩れ落ちたのだった

二人にかけたのは
一部の記憶を消去する魔法で
翌朝目覚めれば二人は濃ゆい恋愛トークの一部をすっかり忘れている事だろう

「あーもー…私って最低」

そんな罪悪感にさいなまれながら
二人の体を重力魔法で浮かせ
綺麗に寝台へと並べていると

部屋をノックする音と共に
先ほどの話題に上がっていた人物が部屋へとやってきた
そしてその光景をみつつ怪訝な表情を浮かべる

「何してるんです?」

「並べてるの」

「何故?」

「眠らせたから」

「ええっ…!!」

王女の凶行にジャーファルは驚きの声を上げた
でも何故、そんな凶行を…と問いかければ
アッバーサは渋々先ほどの会話をジャーファルへと告げる

「ああ、そんな話ですか、で、上手くごまかせなかったから最終手段に出たと?」

そのジャーファルの言葉に
アッバーサはコクリと頷いた

「で、二人は明日の朝ちゃんと起きれるのでしょうね?」

「それが…加減を間違えたかもで、昼くらいまで起きないかも」

そう言いにくそうにアッバーサが言葉を紡げば
ジャーファルは額に手を当てながら盛大なため息を吐く

「まあ明日は公休で朝議はないですし…大目にみましょうか」

それにしても、よく眠っているなとジャーファルが関心していると
じゃあ、私もそろそろ眠るわね…と
アッバーサもいそいそと眠る二人の間へと入っていく

「ええ、はい、お休みなさい…ではなくて!!」

「ああ、そうだ、何か用?」

とアッバーサがジャーファルへと問いかければ

「いえ、仕事が早く片付いたので来ただけですよ、でもまさかヤムライハとピスティがいるとは知りませんでした、二人が姫様に落とされた後に来て良かった」

「そうなんだ、珍しいね」

「たまにはね」

そしてアッバーサは少し考えるそぶりを見せた後
寝台から立ち上がり
此方を見つめるジャーファルの元へと歩いていく

「私の寝台、もう定員オーバーみたいなの」

「そうですね、大きな子供が大の字で寝ている」

クスクスと寝台を見ながら笑うジャーファルは
側に来たアッバーサの腰へと手を回し
抱き寄せた
そして言葉を紡ぐ

「私の寝台でよければ空いてますよ」

その言葉に
アッバーサも微笑みながら言葉を返した

「お言葉に甘えるわ」

そしてアッバーサは自室の扉を静かに閉めるのだった





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