MAGI

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王宮内の中庭でせっせと花の冠を作る紅玉をアッバーサは見守っていた
というのも王宮の中庭をとおりかかったら紅玉が居て
真剣に花の冠を作っていたのだが
その出来があまりにも悲惨なため
見かねたアッバーサが口を出したのだがこうなったいきさつである

「そこは、もっとこう」

口を出すだけだったつもりが
半分ほどは手伝っている

紅玉姫がシンドリアに来てから
そうそう関わる機会の無かった2人だったが
何気なく関わってみれば自然と2人は会話を交わせるようになっていた

「こうですの?」

「そうそう、良い感じだと思う」

そして綺麗に仕上がった花の冠を
紅玉は嬉しそうに胸に抱く
その光景をアッバーサは微笑みながら見つめていた

「誰かへのプレゼントですか?」

何気なくアッバーサが問いかけると
当の紅玉は頬を赤らめ違うと言い放つ
しかし誰かに見せたいようで
紅玉はそわそわした様子で辺りを見回している

「もしかして、兄様へ?」

自分の女の勘など全く当てにならないと思いながらも
紅玉はシンドバッドの事を
とても慕っていたという事を思い出し
アッバーサは何気なく問いかけた

「ちっ違いますわ!これはプレゼントではありませんもの」

「でも、誰かに見せたいのでは?王宮内はまだ不慣れでしょう、その方の元へ案内しますよ」

そうアッバーサが提案すると
紅玉は少しためらいながら
目的の人物を口にする

その人物の名を聞き
ああ、バルバッドのもしかしたら結婚してたかもしれない二人か…と
アッバーサは思い出し
微笑ましいな、と思いながらアリババがいそうな場所を推測するのだった

「多分、今の時間なら銀蠍塔に居ると思います、行きましょう」

そして立ち上がり
服に付いた花びらを払う
それに伴い紅玉も立ち上がった

お互いに年齢はさほど変わらない
しかしアッバーサよりも紅玉のほうが身長が高いため
アッバーサは少し見上げるような視線で
紅玉へ付いてくるように促す

薄着の自分とは正反対に
紅玉の正装はゴタゴタしているな、とアッバーサは思う
けれどそんな服装も、年頃の女の子らしい表情も
この子には似合っていてとても可愛らしいとアッバーサは一人微笑んだ

「なんですの、私の顔に何かついて?」

自分をニコニコしながら見つめてくるアッバーサに対し
紅玉は訝しげに眉を顰め
顔に何かついているのかも、と自らの頬を擦ったりしている

「何もついてませんよ、さあこっち」

そして銀蠍塔の空中闘技場へ続く階段を2人は昇っていく
その最中、紅玉は何かを思い出したかのようにアッバーサへと口を開いた

「あのっ…王女様」

「はい?」

「いっ…以前はうちの神官が大変なご無礼を」

その言葉にアッバーサはハッと振り返り
紅玉を見つめる
そういえば、この子もあの場所に居たのだっけ…とアッバーサはあの日の記憶を呼び起こす

「貴女が謝る事ではありません、私と貴国の神官のいざこざよ」

「ですが、私は煌代表としてお詫びを、ああ遅くなり申し訳ありません、花冠つくりに夢中になって王女様と分かっていたのに無礼な態度を」

そして階段の途中で立ち止まり
ああどうしようと頭を抱える紅玉を
アッバーサはやれやれといった表情で見つめた

「あの神官と貴女は友達なの?」

「何故ですの?」

「ジュダルが貴女には心を開いてるようだったから」

何気なく問いかければ
紅玉は残念そうに目を伏せ言葉を紡ぐ

「いいえ、ジュダルちゃんは私なんて友達じゃないって言ってます…というか私、煌にお友達なんていないんです」

そう悲しげに言葉を紡いだ紅玉に
アッバーサは自分の質問が不適切だったと後悔した
しかしもう遅い
紅玉の纏う空気は段々と重たいものへと変化している

「でも、仕方ないんです…私は市井の出でちゃんとした皇女じゃないから、あまり大きな顔も出来ないし」

「市井って…」

「私の母上は遊女、父上が皇帝陛下なんです…微妙な立場で宮中でも居場所がなくって、バルバッドでの一件でさらに心が苦しくなって、そんな時にシンドリアに来れて、私少し心が軽くなれたんです」

ここは空気が澄んでいて
誰もが笑顔で優しくて
凄く良い国ですね
と紅玉は明るく微笑んだ

「そうなんだ…大変だったね」

「いえ、ぜんぜん…だから私、王女様と話すのは少し緊張するんです」

だって自分が正当な皇女ではないから…と
紅玉は目を伏せる

「大丈夫よ、私だって、シンドバッド兄様とは一切血の繋がりは無いから」

そんな紅玉へ
アッバーサはあっけらかんと自らの出自と兄の出自が別である事を伝えた

「だって、容姿的に全く遺伝的な繋がりを感じないでしょ?」

兄であるシンドバッドは、紫紺色の髪に金の瞳、健康的な肌の色をしている
対するアッバーサは、白銀色の髪に真紅の瞳、病的なほどに白い肌だ
どうみたって遺伝的な繋がりは感じない

「そうなんですの…」

「だから、そんなに畏まらなくっていいのよ、立場は同じじゃない」

そうアッバーサが微笑めば
紅玉は嬉しそうに頷くのだった
そして紅玉は言葉を続ける

「シンドバッド様は、本当に素晴らしいお方ですね」

「ええ、私にとって世界の全てよ」

そして2人は階段を上り
銀蠍塔の空中闘技場へと到着した

アリババの姿はすぐに見つけられた
闘技場の真ん中で一人、剣術の稽古をしている
そんなアリババの元へと二人で向かうが
とうのアリババは修行に集中しきっているため
此方の気配にはまったく気づいていない

そして闘技場内に足を踏み入れ
声を掛けようとした矢先

ヒュッ!!
と風を切る音共にアリババの剣が頭上を通過した
それに驚き紅玉がしりもちをつく
そこでようやくアリババは二人の存在に気づき
剣を降ろしたのだった

「ちょっとあんたァ、危ないじゃないのぉ!」

しりもちをついたまま紅玉が叫ぶと
アリババはゴメンといいながら紅玉へと手を差しのべ、その体を引き上げた

「紅玉さんに、アッバーサさん、二人して何しにここへ?」

アリババからの問いかけに
紅玉は、フフフと笑いながら袖の中にしまっていた花冠を差し出す

「おお〜うまくできましたね」

「ええ、少し手伝ってもらったけど、どうよ!」

「紅玉さん、あんなに不器用だったのににね」

とアリババはしみじみと言葉を続けた
そのやりとりをアッバーサは微笑みながら見つめている

「そういえば、あなた武術の鍛錬中なのぉ?」

「あ、はい」

「そう、丁度いいわぁ、私も体がなまっていたし…」

そして紅玉は
自らの簪を引き抜き
それをジンのもつ剣へと変化させた

「あなた金属器使い同士私と勝負なさい!」

その突然の申し出に
アリババは驚き一歩後ずさる

「ダ、ダメですよ、お姫さまと勝負だなんて…ねぇそう思うでしょ、アッバーサさん」

そしてアリババに背を押されるように
紅玉の前に立たされたアッバーサは
困ったように紅玉を見つめた

「私が金属器使いだったら、相手できたんだけど」

アッバーサの言葉は
遠まわしに、手合わせはやめましょうと言う意味である
しかし、完全に武人としての魂に火がついてしまった紅玉は

「問題ありませんわ、だって貴女はジュダルちゃんと互角に戦っていましたし、私とも互角に戦って頂けますわ」

と、とても嬉しそうに言葉を紡いだ

「いや、魔導士同士ならまだしも、金属器使いはちょっと…」

しかしアッバーサ的には何とかして手合いを避けたい
そのため相変わらず遠まわしに拒否を伝えてみるのだが

「それに、王女と皇女どうし、互いの親睦を深めるためにも、必要な事だと思うんです」

と紅玉より生き生きとした目で頼まれれば
アッバーサもこれ以上否定の言葉を述べれない
そしてアッバーサは意を決して言葉をつむぐのだった

「じゃあ…誰かにみつかって怒られるまで…ね」

そして紅玉は全身に魔装を纏っていく
その過程を見つめながら
アッバーサは過去の、兄との修行を思い出すのだった




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