MAGI

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八人将のうち3人がザガン攻略へ向かったアリババ達の護衛の為にぬけ
アッバーサも居ない朝議場は広く感じられた

その中央の席で、シンドバッドはジャーファルが告げる本日の予定を
右から左に受け流しながら聞いている

気になるのは専ら妹の事だ
こんな朝議頭になど入らない
そんな事を考えながらシンドバッドは両手を顔の前で組み
ため息を吐いた

そしてジャーファルより

“それでは本日もよろしくお願いします”

という朝議終了を告げる決まり文句が聞こえたためシンドバッドは顔を上げる

その瞬間、朝議の司会を行っていたジャーファルと視線があい
シンドバッドはバツが割るように苦笑した
その様子にジャーファルはため息をつきながら口を開く

「どうかされましたか?…全く朝議を聞かれていないようでしたが」

「ああ…実はな」

そう言いながらシンドバッドは席を立ちジャーファルについてくるように命じる

「朝餉の席でアッバーサが倒れた」

獅子塔へと続く廊下を歩きながら
シンドバッドはジャーファルへと今朝の出来事を告げる

「朝は普通の様子だったんだ…だが寝不足か疲労からか酷い隈が出きていた…その後、普通に食事をしていたんだが、トマトのスープを見たとたん、あいつ顔色を変えて、気持ちが悪いと倒れたんだ」

そう話しながらシンドバッドは
心配そうに瞳を伏せた
そしてその報告を聞いたジャーファルも心配そうに表情を曇らせる

「侍医には?」

「アッバーサが、寝てれば治ると頑なだったため診て貰ってはいない」

「…昨日の今日です…精神的な何かでしょうか…」

「ああ…多分そうだろうな…夢見が悪かったとも言っていたし、おそらくは…」

場所は獅子塔へと移り
静かな廊下を進みながら
シンドバッドは声のトーンを落として続けた

「だが…一瞬、悪阻か…と俺も真っ青になりかけた」

場の空気を考えずに不謹慎な事を呟いたシンドバッドだが
そうでもしなければ不安で押しつぶされそうになる

何か…妹によくない事が迫っているのでは…と

「あんた、こんな時に不謹慎ですよ」

「ああ…そうだな、だが軽口でも叩いていなければ不安なんだ…凄く」

「軽口を咎めたい所ですが…貴方の勘はよく当たる…」

「本当に、嫌な勘だよ…」

そんなシンドバッドと目線で会話を行い
アッバーサの部屋の扉をシンドバッドが叩くと
すぐさま女官のサーラが応対し
二人はアッバーサの寝室へと案内された

「つい先ほどまで起きておられたのですが…」

そのサーラの視線の先には
寝台の上で死んだように青白い顔で眠るアッバーサの姿がある

「顔色が良くないな…」

そんな妹の頬にかかった髪を掬いながら
シンドバッドが心配そうに呟いた

「吐き気は治まったのですか?」

「はい、幾分かましになったと姫様はおっしゃっておりました」

「そうですか…良かった」

女官の答えに
シンドバッドとジャーファルは安心したように表情を和らげる
そして、二人とも午前中の公務があるため
アッバーサの顔を見てすぐに部屋を後にしたのだった

しかしその去り際にジャーファルがサーラへと耳打ちを行う

「サーラ、私達が居ぬ間は、何があっても君が姫様をお守りしなさい」

その言葉にサーラは小さく頷くのだった









ーーーーーーーーーーー




四方を囲まれた狭い空間
透明の隔たり
遠くに見える光
自らを取り囲む、黒衣の人々


また…この光景だ
あの夢の続きだろうか…


そんな事を考えながら
アッバーサは視線をぼんやりと漂わせる


“パルテビアへ放った魔女をここへ”


すると、頭上から低い声が聞こえ
其れと共に場面は移り変わる


一人の女が部屋の中央に横たわっていた
腹が大きい、恐らく身篭っているのだろう
女は黒いヴェールで顔を隠しているためどんな容姿なのかは分からない
けれどヴェールから覗く長い髪は
綺麗な白銀で
それが漆黒の世界で一際輝きをはなっていた


“お前は今から偉大な功績を成し遂げる”

“偉大な魔女であるお前の子だ…きっと器に相応しい”


女の周りを8人の黒衣と黒いクーフィーヤを纏った男が取り囲んでいた
それぞれ形の違う杖を片手に携えている


“眠っている間に終わる”

“ああ、これでようやく我らの「鍵」が蘇る”


そして一人の男が女の腹へと杖を翳す
すると其処を中心とし、魔法陣が広がり女の体を取り囲んだ


“例のモノを此処へ”


その言葉とともに
少し遠かった視界が女へと近づいていくのが分かった


“偉大なる「   」の欠片、我らの鍵よ”

“新たな器に宿り、そして我らと共に漆黒の未来を”


ガラスの割れる音が響く
女の叫び声が聞こえる
目の前が真っ白になる
そして目に写る光景は蜃気楼のように消え去り
そのまま意識は女を取り囲む魔法陣へと吸い込まれていった
















ーーーーーー








目を開く
視界を認識する
そこに在るのは見慣れたベッドの天蓋だった

そしてアッバーサはゆっくりと寝台から体を起こす
すると不意にキラキラと光るものが零れ落ち
シーツを握る手の甲へと滴り落ちた


…涙


そんな認識をしながら目元に手を充てると
其処に溜まっていた涙が次々と零れていく


恐い夢を見た
否、恐いというよりも辛く悲しい夢だった
あの光景は一体何なのだろう
あの女はどうなってしまったのだろう


私は一体何なのだろうか…


そんな夢で見た疑問を頭に思いつつ
アッバーサは袖で涙を拭い
寝台から立ち上がった


そしてバルコニーへと出れば
下界での賑やかな喧騒が耳に入る

「お目覚めですか、姫様」

「……おはよう…サーラ」

王宮の庭から市街地へと続く道は
明るい灯篭が燈っており
行き交い騒ぐ人々の姿がよく見えた

「…お祭り?…謝肉祭?」

「いいえ、アリババ様たちが迷宮攻略をなさったお祝いの席でございます」

「…そうなんだ…ジンはアリババ君が?」

「いえ、白龍様だとお聞きしています」

「…そう…」

少し残念そうに呟いたアッバーサへ
サーラは薄手の外套を肩にかける

「ご気分はいかがです?」

「治ったみたい……」

しかし、悲しそうに目を伏せたアッバーサの姿に
サーラは疑問を抱き言葉を紡いだ

「……酷く…悲しそうな顔をされています」

「……そう…かな…」

「はい…また恐い夢を見られたのですか?」

「…恐いのか…悲しいのか…辛いのか…ぜんぶが混ぜこぜになって、自分でもよく分からない…そんな夢を見たの」

「姫様……」

「でも、大丈夫よ…心配しないで」


そう呟き
アッバーサはサーラへと向けていた視線を
城下へと移した

賑やかな光景
幸せそうな人々
穢れの無い白いルフ

ああ…この国は平和なんだ

それを目に写し安心する





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