MAGI

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アクティア王国からの子供を引き取ったから早一週間
シンドリアは相変わらず平和であった

空は青く海は穏やか
人々は微笑みあい
バザールは活気に溢れている

こんな平和な国を見ていると
この世界の何処かで異変が起こっているなどという事実は忘れてしまいそうである

「姫様姫様、まだ出来ないの?」

王宮の中央庭園でアクティア王国から引き取った女児たちに囲まれながら
アッバーサは先ほどから花冠を作り続けていた

「あと少し」

アッバーサの回りを取り囲むように5人の女児たちが座り
キラキラとした瞳でアッバーサの手元を見つめている
そしてアッバーサは出来上がった花冠を待ちわびていた子供達へと戴冠していく

「わーおひめさまみたい」

「かわいい」

「姫様ありがとうございます」

「似合うかな」

「姫様じょうず」

そんな思い思いの感想を述べながら
子供達は嬉しそうに微笑んでいた
そんな中、子供のうちの一人が花冠を取りまじまじと見つめながら小さく呟く

「でも、これって枯れちゃうんだよね…」

「しかたないよ、花だもん」

「そうだよ、また作ってもらおうよ」

残念そうな表情をしている子供達を見つめながら
アッバーサは穏やかに微笑み
側に居た子供の頭に手を置き優しく撫でた

「じゃあ枯れないおまじないをしてあげる」

そしてその子供の花冠を取り
自身の胸元に掲げ
ルフへと命令式を紡ぐ
すると花冠は一瞬の輝きを放った後に
その時を永遠に止め枯れぬ花となった

「姫様なにしたの?」

「枯れないおまじない、これでこの花冠はずっとこのままよ」

「わー凄いね姫様、私のもして」

瞳を輝かせた子供達は自分の花冠にも同じ魔法を施して欲しいとアッバーサの回りへと群がる
そしてアッバーサは一人、また一人と枯れぬ魔法を施していった

しかし

最後の子供の花冠を胸元に掲げ魔法を施そうとした時
何故か上手くルフへと命令式が伝わらず
その花は一瞬にて枯れてしまった

ハラハラと茶色く変色した花びらがアッバーサの白い衣服の上へと舞うように落ちる
その光景に子供達も驚いていたが
一番驚いていたのは紛れもない術を施したアッバーサ自身だった

「ご…ごめんね、少し失敗したみたい…すぐに作り直すから皆は緑射塔へ戻って」

動揺しつつ言葉を紡いだアッバーサは
子供達を残し
その場から立ちあがる

「姫様どこいくの?」

「もっと綺麗な花を摘んでくるね」

そしてアッバーサは子供達を残し
東の森へと歩いていく
その後姿を子供達は何処か心配そうに見送るのだった







ーーーーーーーー







魔法の失敗などアッバーサにとっては滅多とない事だった
勿論、子供の頃はよく魔法に失敗し、周囲に多大なる影響を与えた事もあった
しかし心身ともに成長した現在は安定してルフを使役する事が出来たため
こんな簡単な魔法で失敗するなど奇跡に近いことなのだ
そんな自身の失敗にアッバーサは少なからず動揺していた

何故?
どうして?
こんな初歩的な魔法で…

そんな動揺と不安からか鼓動は早く
嫌な汗がこめかみを伝う

そしてたどり着いたシロツメクサの花畑へと座り込み
先ほど台無しにしてしまった花冠の代わりを作成し始める

代わりの冠も綺麗に出来上がった
それを胸に掲げ魔法をかけようとしたが
先ほどの光景が脳内に蘇り
アッバーサは小さなため息をつきその冠を膝の上に置いた

そして代りにシロツメクサを一輪摘み取り
それに枯れぬ魔法を紡ぐ

しかし

そこでもルフへ命令式が伝わらず
シロツメクサは一瞬にして枯れてしまった

「…どうして…」

自身の掌を見つめながら
アッバーサはポツリと呟く

目を凝らせば掌の周りを金色と白色のルフがふわふわと舞っている
それなのに、何故このルフ達を使役できなかったのだろうかと
アッバーサは悲しそうに瞳を細めた

じゃあ、他の魔法ならどうだろうか…

そう思い両手を掲げ光を集めるよう大気のルフへと命令を送った

しかし

「…そんな…」

掌には命令に逆らって
真っ黒な“何か”が集まり
アッバーサが驚いて両手を離すと共に
その黒い塊は地面へと落ち
その瞬間にシロツメクサの花畑は一瞬にして枯れ草の花畑と化してしまった

「違う…こんな命令」

一歩後ずされば
枯れた草花がパリパリと音を立てた
まるでそれが花の悲鳴のように思え
アッバーサは自身の身を抱きかかえるようにし
その場から走り去る

何故…どうして

そんな疑問と恐怖を抱きながら
アッバーサは自室へと戻り後ろ手で扉を閉ざすと
そのままその場へと座り込んだ

「姫様…いかがなされました?」

部屋つきの女官であるサーラが心配そうに言葉を紡ぐ

「サーラ……私…魔法が」

そこまで言葉を紡ぎ
アッバーサは続きの言葉を噤む

もしかしたらこれは今日一日だけの事かもしれない
明日になればいつもの自分に戻っているかもしれない
だからここでサーラへと話しシンドバッドやジャーファルに要らぬ心配をかけるよりも
少し様子を見たほうが良いだろう

そうアッバーサは自分へと言い聞かせてから
笑顔を取り繕い顔を上げた

「ううん、何でもないの…アクティア王国の子供達とかくれんぼをしてて、流石にここまでは追いかけてこれないかな」

そんな全くの嘘を紡いでも
腹心の女官は何も言わずにアッバーサの言葉を信じてくれる

「そうでございますか、ここは少し難易度が高いかもしれませんね」

「そうだよね、でも少し疲れたから私はこのままドロップアウトにしてもらおうかな」






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