MAGIW

□黒歴史について
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午後の公務がひと段落し
アッバーサが黒秤塔内にある図書室へやってくると
その図書室の隅の一角に珍しい人物をみつけたため
アッバーサは気配を消してその人物へと近づき
後ろから声を掛けた

「アリババ君」
「うわぁ!!!」

しかしアリババは予測していなかったアッバーサの登場に非常に驚いたらしく
図書室中に響き渡るような声を出し
机に広げていた巻物を慌てて丸めだす

「ごめん、そんなに驚くとは思ってなくて」
「いえいえ、俺こそリアクションが大きくてすみません」

そしてアリババはアッバーサから隠すように巻物を丸め
それを机の隅に置き
変わりに分厚い政治についての本を開けだした

明らかに挙動不審な動きを横目で見つめながら
アッバーサは言葉を紡ぐ

「アリババ君が図書室に居るなんて珍しいね」
「今日は師匠が午後から外勤で時間が空いたんです」
「アラジンとモルジアナは?」
「二人とも師匠達と修行中で」
「それで残されたアリババ君は読書に勤しんでたの?」
「ええ、まぁ」

アリババはニコニコと笑ってはいるが
その笑みは何処かうそ臭い
そして彼は政治の本はやっぱり難しいですね〜などと言葉を紡いでいるが
アッバーサから見える其の本はどう考えても逆を向いていた
彼は難解な本を逆から読むスキルを持ち合わせているのだろうか?
そんな事をアッバーサは一瞬考えてみたが、いやいや在り得ないだろ…と自分の考えを否定した

「ところでアリババ君、その巻物は何?」

そしてアッバーサが不意にその質問を振れば
彼は一瞬動揺したかのように
その巻物を手に取りアッバーサから少し離れた場所へと遠ざける

「いえ〜これは大したものじゃないので」
「見たところ何かの書簡?」
「ああ、うん、そんな感じです」
「あら書簡なら私この後ジャーファルに会うから渡しておくわよ」

そうアッバーサが好意で言葉を紡げば
アリババは全力で首を振り、それを必死で断った

何か怪しい

そう感じたアッバーサは更に鋭い質問をアリババへと送る

「何の書簡なの?」
「…えっと…ここの政治の事とか」
「政治の?でもそれは閲覧禁止の書簡だから縁が赤色の巻物のはずなんだけど」

アリババの巻物は色つきの縁取りがされておらず
ただの巻物のようであった

そしてだらだらと冷や汗を垂らすアリババを怪しいと思ったアッバーサは
巻物へと右手を向け、それを重力魔法で自分の手中へと納めた

「あ!!ちょっとアッバーサさん」

焦るアリババ
巻物を奪い返そうと彼は席を立ちアッバーサへと手を伸ばす
しかしアッバーサはそれを重力魔法でフワリとかわし
彼から少し離れた本棚の上へと降り立ち
ここまでは追ってこれないだろうと、余裕の笑みを浮かべた

幸いにも図書室内には官吏や食客達の姿は無く
居るのはシンドリアの王女とバルバッドの第三王子の二人だけである

そしてアッバーサはその巻物を開け
書かれている文字に目を通す

「えーと……グレー?…グレート・ハンサム・アリババの冒険??」

第一文目に書かれていた言葉を読み上げたアッバーサが首を傾げる
何だ、この物語状の書簡は…
そして何故かサラッと文面に登場している名前を持つ彼を見下ろせば

「う…うわぁぁぁあ!!!」

彼は真っ赤な顔で机の上に登っており
アッバーサから巻物を取り戻そうとその場から本棚へと向い飛び立った

ただの人間の跳躍など恐くないと思っていたアッバーサだったが
人間、火事場のバカ力という物が存在する事を、その時彼女は始めて知る事となる

アリババは可憐に宙を舞った
彼は本棚へと飛び移り、その上で悠々と巻物を眺めていたアッバーサの元へと這い上がれば
彼女から巻物を取り戻そうと狭い本棚の上でアッバーサへと手を伸ばす

一瞬油断していたアッバーサの手から簡単に巻物を奪ったアリババだったが
大きな子供二人が狭い本棚の上に乗ればやはり弊害は起こるもの

グラリ!!

と揺れた本棚とともに
2人は地面へと投げ出され、大量の本とともに二人は大理石の床へと落ちたのだった

「…痛っ…」

体の上に積もった本をバラバラと散らしながらアッバーサが起き上がる
そして何故か自身の体の下だけクッションでも出来たかのように何故だから柔らかいと思い下を見れば

「痛ててて…」

アッバーサのクッションになるかのようにアリババが横たわっており
彼は打ったであろう後頭部を抑えながら頭を起こす

「ご、ごめんねアリババ君」
「いえ、俺のほうこそ、すみません」
「それより怪我は?頭打ったの?」

血は出てない?傷は無い?
とアッバーサはアリババの上に乗っかったままで彼の怪我が無いか確かめようと身を乗りだした
しかし、どうやらその体勢は初心な彼にとっては非常に恥ずかしかったらしく
彼は顔を真っ赤にし固まってしまった

「大丈夫?顔真っ赤だけど本当に打ち所悪かったんじゃ!?」

オロオロとするアッバーサだったが
そんな彼女に対しようやくアリババは口を開く

「す、すみません…俺の上から退いて下さい」

その必死な一言に
アッバーサは自分の体勢を確認した後
ああなんてはしたない格好を…とすぐにその場から退き手を伸ばしてアリババを立たせた

そしてとりあえず重力魔法で本棚を元に戻し
床に散乱した状態の本を全て魔法で本棚へと収めたのだった

「ごめんね、頭痛む?」
「大丈夫です、俺のほうこそ無茶な事してすみません」
「ううん、お互い様だね、本当にごめんなさい」

お互いにぺこぺこと謝りあうが
アッバーサにとっては本棚から転落した衝撃よりも
アリババが右手に大事そうに持っている巻物の中身に対する衝撃の方が強かった
そして彼女は物凄く気まずそうな表情をしながらアリババへと問いかける

「その…巻物の中身なんだけど…」

一瞬辺りがシンと静まり返った
おそるおそるアッバーサがアリババの顔を見上げると
彼は非常に恥ずかしそうな表情をしていた

「ああああ、ごめんなさい、私忘れるわね、大丈夫よ、ちょっとヤムライハに記憶消して貰って来る」
「いえええええ、俺の方こそコソコソとすみません、大丈夫です、全て見せますからアッバーサさんはそんな最終手段に出ないで下さい」

そしてアリババに肩をつかまれ引き止められたため
アッバーサはそんな彼に従い
綺麗に並べられた椅子へと腰掛ける

「実は…シンドバッドさんみたいに自伝書を書いてて…」

アッバーサの隣に座ったアリババは
恥ずかしそうに言葉を紡いだ
そして巻物をアッバーサの前へと広げる

「読んでもいいの?」
「良いですけど、絶対に笑わないでくださいよ」

その巻物…否
“グレート・ハンサム・アリババの冒険書”の内容は衝撃的だった

何故かアリババの名称が全て“グレート・ハンサム・アリババ”で統一されており
登場人物であるモルジアナも“ハイパー・グレート・ハンサム・モルジアナ”に変わっていた

ダメだ、可笑しすぎる
笑いたい、でも隣で照れつつも自信に満ち溢れた瞳で此方を見てくる彼の心を無碍には出来ない…と
アッバーサは必死で笑いを堪えた

そして

「ど…どうでしたか?」

読み終えたところでアリババに感想を求められたため
彼女は

「凄く良かったわ、特にグレート・ハンサム・アリババがアモンに選ばれたところ辺りが」
「そうですか!あれは俺も一番かっこよかったなって思うんです」
「そっか、うん、すごくアリババ君らしさが出てて良かったと思う」
「ありがとうございます、あっ…この事はシンドバッドさんには内密でお願いしますね」
「ええ、分かったわ」

そしてアッバーサはまだ図書室で執筆に勤しむというアリババを残し
残してきた公務へと戻ったのだった



ーーーーーーーー



本日の公務が全て終わり
夕餉も済ませたためアッバーサはジャーファルの部屋へと訪れていた

そしてソファに座りジャーファルが入れてくれている紅茶を待つ

「あ、そうだジャーファル」
「どうかしましたか?」
「今日ね、図書室でアリババ君にあったんだけど、彼ね兄さんみたいな自伝書を書いてるのよ」

彼には兄には内密にしておくようにといわれたが
ジャーファルに言うなとは言われていない
だからこれは約束違反では無いと自分に言い聞かせアッバーサは続きの言葉を紡いだ

「その題名がね“グレート・ハンサム・アリババ”なのよ…彼…5年後くらいに当時の自分を抹殺したい衝動に駆られたくならないか心配で」
「それはまた…酷いネーミングですね」
「ええ、内容も中々に凄かったけど…」
「若気の至りという奴でしょうか」
「そうよね、さすが経験者、よく分かってるのね」

そうアッバーサが悪気も無くサラッと紡いだ言葉に対し
ジャーファルは一瞬固まった

聞き違いだろうか?
そんなポジティブな思考を展開してみたが
どうやら聞き間違いでは無いようで
アッバーサはあっけらかんとした表情で次の一撃をジャーファルへと加えた

「ジャーファルも“俺の心は既に凍てつい”」
「あーーーーー!!!!」

しかし、そんな一撃に対する彼の反撃も早かった
彼は持っていた食器を机へと置くと素早くアッバーサの口を手で塞ぎ
彼女が次の言葉を紡げなくする

「その話は絶対にしないと約束したでしょう」
「んんん!!!」
「若気の至りは時にむごい古傷になるんです」
「んーーーんんんん!!!」

口を塞がれたまま
アッバーサは抗議の声を上げるが
必死な彼には聞こえていなかった

「いいですかアッバーサ、アリババ君の事もそっとしておいてあげてください、いざとなれば彼が若気の至りに後悔する前に私がなんとかします」

そんな必死の形相で言葉を紡いだ
ジャーファルはようやくアッバーサの口元から手を話し
再び紅茶を入れる作業に取り掛かった

そんな彼の姿をジトーっとした瞳で見つめながら
アッバーサはボソっと言葉を紡ぐ






「……“所詮は血塗られた運命だ”」





その瞬間、彼の手からティーカップが滑り落ち
派手な音を立てて割れたのだった







END
 

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