MAGIT−U

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息が詰まりそうな閉鎖空間
四方に張られた結界はとても頑丈で
いかなる物理攻撃をももろともしない
そんな檻の中で過ごす事、はや二週間が過ぎようとしていた

アッバーサの衣食住の世話をするのは
魔術により精巧に作られた女官の人形であった
といっても、人間に似せて非常に精巧に作られているため
見ためだけでは、そこらの女官と大差ない
ただ違うところといえば、彼女達の顔には表情が無く、そして紡がれる言葉も無い
それはただの動く人形でしかなく、女官の人形は淡々とアッバーサの世話をする

そんな生活にもなれ
壊せない結界への苛立ちと
毎日訪れる見張り役のジュダルに
アッバーサの精神もそろそろ限界へと達していた

「来ないでっていったでしょ」
「仕方ねぇだろ、だって俺はお前の見張りだし」
「見張るだけならわざわざ部屋に居座らなくてもいいでしょ」
「部屋の前でつったて見張ってろって言うのか?俺はマギ様だぜ」

そう言いながら
彼は定位置となったソファに寝転び
机の上に盛られた桃を頬張る

くちゃくちゃという耳障りな音に
アッバーサは思わず表情を歪めた

「ブッ細工な面」
「あんたこそ品の無い食べ方…育ちの悪さが露見しているわね」
「うっせーな、良いんだよ、どうせまともな育ち方してねぇし」
「ええ、そうね、貴方の言動をみているとよく分かるわ」
「そんなお前も、もう少し御淑やかなのかと思えば、とんだアバズレだな」
「なんですって」

そんな会話は最早日常茶飯事だった
そのため二人とも互いの言葉を受け流しつつ
心の中で更なる悪態を付く
そうでもしないと苛々が募りやっていられないと…アッバーサはジュダルを睨みつけた

「まぁ、そんな苛々が募ってるお前に暇つぶしの土産だ」

そしてジュダルは机の上に置いていた四角く平べったい箱を魔法で浮かせアッバーサの元へと運ぶ
それは目測どおりアッバーサの膝の上に着地し
ジュダルはそれをアッバーサに開けるように命じる

「何?虫でも入れてるの?」
「ちげーよ…兎に角空けろ、うちの魔導士からの贈り物だ」

その言葉にアッバーサは警戒しながらその箱をゆっくりと開いた
中に入っていたのはシンドリアでも馴染み深いチェスの駒であり、箱は平らにするとボードになる作りとなっている

「…何…魔導士は一体どういうつもりでこれを寄こしたの」

全く思考が理解できない…という表情を浮かべながら
アッバーサはジュダルへと問いかけた

「さあな、俺もしらねぇよ…お前が退屈そうだって言ったらこれを渡されただけだし」
「…じゃあ、これであんたと遊べ…とでも?」
「そうなんじゃねぇの」

どうせ暇だから遊ぼうぜ…とジュダルは食べ終わった桃の種を皿の上に置き
アッバーサの座る寝台へとずかずかとあがり込む

「来ないでよ、黒マギ」
「けちけちすんなよ、白魔女」

そしてジュダルはアッバーサの膝からチェス一式を奪い取り
それを寝台の上に並べだす

「ちょっと、私はやるなんて一言も」
「どうせ暇だろ?俺もやること無くて暇だし、少し遊ぼうぜ」
「遊ぶってふざけないでよ…どうしてあんたなんかと遊ばないといけないの!?」
「あ?暇だからに決まってんだろ」

拉致の明かない会話に
アッバーサはふつふつと怒りが沸きあがるのを感じた
何故、自分が敵であるこのマギと呑気にチェスなどしなければいけないのか
そう思うと無性に腹が立ち
アッバーサはジュダルが並べるチェスの駒を右手で蹴散らそうとした

しかし

「お前、せっかく俺が並べてやってんだぜ」

ジュダルはアッバーサの右手首を掴み
力任せにその手首をぎりぎりと締め上げる
時々ミシリと軋む痛みを感じながら
アッバーサは唇をかみしめ彼をにらみつけた

「そんなに嫌かよ」
「嫌よ、あんたと馴れ合う気なんて更々ないわ」
「こっちは、打ち解けたいんだぜ…近いうちに仲間になるお前と」
「仲間になんてならないって言ってるでしょ」
「往生際が悪いな、いい加減諦めろよ」
「諦めないわよ」

そしてアッバーサは空いている左手でジュダルの頬を打とうとしたが
その手も簡単にジュダルにとめられてしまう

「シンドリアの事なんて忘れてしまえ」
「絶対に忘れない」
「あんな国の何処が良いんだ?」
「全てよ!!王も八人将も官吏も民も…すべてが良いのよ」
「じゃあ、もしもあの国が滅んで…今のお前を支えるすべてが消えたら…お前はこっちを選ぶのか?」

ジュダルは紅い瞳を見開き、似た色を持つアッバーサの紅い瞳を見つめた
大きく開かれたジュダルの瞳とは対照的に
アッバーサは瞳を細め言葉を紡ぐ

「あの国は決して滅ばない…王が全てを守る、八人将だって居る…」
「だが、こっちは巨大な軍事力をもつ煌帝国を操っているんだぜ…煌帝国にかかればシンドリアなんて一撃だ」
「シンドリアは負けないわ…絶対に」

ジュダルに握られた両手首が酷く痛んだ
それでもアッバーサは彼に抵抗しようと必死でもがき言葉を紡ぐ

「兄さんは絶対に負けたりしない…7海の覇王をバカにしないで!!」

叫ぶように言葉を紡げば
ジュダルも負けじとアッバーサを睨み言葉を返す

「お前な…そんな兄妹ごっこなんてして楽しいのか?」

そしてジュダルはアッバーサを思い切り突き飛ばし
寝台へと仰向けに倒れたアッバーサへと覆いかぶさり
彼女の両手首を今度は寝台へと押さえつけた

「それとも、お前バカ殿とデキてんの?」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたジュダルはアッバーサの顔を見下ろした
そんな彼を睨み上げながら
彼女は必死に逃れようと足をばたつかせる

「兄さんを侮辱しないで!!」

そう叫ぶも、両手を押さえつけられているため大した抵抗は出来ず
先ほどから現状は全く好転しない

「バカ殿とデキてねーのか?じゃあ、お前って恋人とかいたの?」
「は?」
「まあどっちでもいいか」

そう言いながらジュダルはアッバーサの両手首を一まとめにし、それを首もとの飾り布できつく拘束した

「何するの!放しなさい!!」
「ちょっ暴れんなよ、そうカリカリすんなって…楽しい事して落ち着こうぜ」

ニヤリと笑うジュダルは
右手でアッバーサの顎を掴み、顔を動かせないように固定させる

「どうせ暇だろ、それにチェスも嫌なんだろ?…だから楽しい事でもしようぜ」
「楽しい事って…」

嫌な空気を感じ、アッバーサは思わず固まる
その様子を感じたジュダルは面白そうに笑いながら言葉を紡いだ

「お前って処女?…まぁどっちでも良いけど」

両手は拘束されていて動かせない
足をバタつかせるもジュダルに圧し掛かられているため大した抵抗にはならない
そして彼は左手をアッバーサの顔の横に着き、一切の抵抗をさせない体勢となった

「どうやったらお前を組織に引きずりこめるか俺は必死に考えたんだ…魔法で堕転はさせられなかった、時間が解決するとも思えねぇ…じゃあどうするべきだとお前は思う?」

そしてジュダルはアッバーサの耳元へと口を寄

囁くように言葉を紡ぐ

「…俺の子を孕めばお前は嫌でも組織に下るだろ」

そのままジュダルはアッバーサの首元へと舌を這わせる
ざらざらとした不快感にアッバーサは思わず瞳をきつく閉じた
全身の筋肉が硬直し、全ての感覚が彼を拒絶するかのように反応する

瞳を閉じ
唇をかみ締め
血が滲むくらい両手を握り締めた

嫌だ、絶対に嫌だ
誰か助けて…


ジャーファル…


そう心の中で助けを求めるも
そんな言葉は決して彼には届かないだろう

そして寝台がギシリと軋む
嫌な空気を感じ、アッバーサは更に体をこわばらせた

その時




「アハハハッハ!!お前って超おもしれぇ」




先ほどまでアッバーサへと覆いかぶさっていたジュダルは体を起こし
アッバーサを見下げながら笑っている

「犯されるとでも思ったか?あいにく女には不自由してねーよ…あれは冗談」

そう言いながらジュダルは魔法でアッバーサの両手首の拘束を解いてやった
よろよろと起き上がったアッバーサはジュダルを睨みつけ“最低”と呟くも
先ほどの恐怖感から抜け出せた安心感からか、自然に零れ出る涙をその袖で必死にぬぐう
そして涙ながらにアッバーサは口を開いた

「こっちだって、あんたに犯されるくらいなら舌を噛み切って死んでやるわ…」
「そんな過激な事すんなって」
「私に魔法が戻ったら、あんたの四肢を八つ裂きにしてやる!!」
「おー恐ぇえ恐ぇえ」
「絶対に許さない…あんたも…組織も…滅びればいいのよ」
「お前、それって悪役の台詞だぜ!?」
「黙りなさい!!」

手首には先ほどきつく縛られた鬱血の痕が残っている
そんな手首へと視線を落としながらアッバーサは唇をかみ締めた
此処へ来て、幾度と無く唇を噛締め色々なモノに耐えてきた
しかし、そろそろ限界だ

そしてアッバーサは衝動的にジュダルへと飛び掛り思い切り両肩へと体重をかけ
先ほどとは逆にアッバーサがジュダルの上へと圧し掛かる

全体重を掛け、奴の腹へと方膝を乗せる
左手では奴の右肩を押さえつけ
一瞬の隙をつき
先端に紅い石のついた魔法を使うための杖を奪い取った
そしてアッバーサはその杖を右手に構え彼の首元へと突きつける

「魔法を封じられたお前に何が出来る?」
「こんな腕輪壊してやる」



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