MAGIV

□act:3
1ページ/1ページ








「アイーダ、今日は一緒に街へ降りよう」

いつもジャーファルが迎えに来る時間にやってきたのは
この国の王であるシンドバッドだった
久しぶりに見る王の姿にアイーダは跪き拱手を組んで頭を垂れる

「王とともに街へ降りるなど、そんな滅相もございません」

震える声で言葉を紡いだ彼女の頭を撫でながら
シンドバッドは部屋の壁に掛けられていた、薄手のベールを彼女の頭へとかけ
腕を支えてその場へと立たす

「せっかくここの国民になったんだ、俺の国を案内したいと思ってな」
「しかし、私のような人以下の生き物に王自らが案内など」
「そんな固い事は言うな、それに君みたいな綺麗なお嬢さんを案内できて俺は幸せだ」

そんな歯の浮くような台詞などアイーダの耳には入っていなかった
半場引きづられるように王宮の外へと連れ出された彼女の後を
ジャーファルが気配を消して追う

「これは、南海で取れるアバレウツボの燻製ですごく上手いんだ」

シンドバッドは露店の説明をしながら串にささったウツボの燻製をアイーダへと差し出した
その串を受け取りつつ、彼女はこれをどうすればいいのか分からないといった表情でシンドバッドを見上げる

「そのまま齧り付くと良い、上手いぞ」
「でもジャーファル様が…そんなはしたない食べ方はダメだと」
「あれは王宮の中だけだ、街へ降りればテーブルマナーなんて気にしなくても良い」

そう眩しいくらいの笑顔で言葉を紡いだシンドバッドは
自分の串を豪快に齧る
それを確認した後、アイーダも串に齧り付いた

「美味しい…」
「そうだろ、この国にはうまいものが沢山ある…そういえばアイーダの好きな食べ物は何だ?」
「ほとんど狼として生きていたので…生肉しか食べたことがなくて、特に食べ物で好きだとは思った事はありません」

そんなアイーダはキョロキョロと露店を見回り
行きかう人々に怯えながらもその瞳を輝かせている

「俺の国は賑やかだろう」
「はい、誰もがすごく幸せそうです」
「君もここの国民なんだ、もっと笑ってくれ」
「貴方様の命令ならば、忠実に従います」
「いやいや、そうじゃなくってだな…」

苦笑を漏らしつつシンドバッドはアイーダの頭を優しく撫でた

「俺は、君がこの国で幸せに暮らして欲しいと思っているんだ」
「何故です?」
「国民は全て俺の家族のようなものだ、だからアイーダも俺の家族だ、家族には笑っていて欲しいものだろ?」

その言葉にアイーダは一瞬驚いた表情をした後
ほんの少しだけ微笑んで見せた
そんな貴重な瞬間を目撃できたシンドバッドは
嬉しそうに彼女の頭を撫でる

しかし次の瞬間
何かの気配を察知したアイーダが立ち上がり
一瞬で狼の姿へとなり
地面を一蹴りするとともに民家の屋根の上まで跳躍した
先ほどまで彼女がいた場所には、彼女が纏っていた衣服が抜け殻のように落ちており
シンドバッドは其れを拾いながら穏やかに微笑む

「どうだ、ジャーファル彼女はシロだろ」

そして彼の声は屋根の上で白い狼の前足によって押さえつけられたジャーファルに届いていた

黒いフードを被ったジャーファルの顔を確認した瞬間
白い狼は金色の目を見開きすぐに人の姿へと戻る
そんな裸体の少女へと黒いフード付きの外套をかけ体を隠してやりながら
ジャーファルは小さく言葉を紡いだ

「すみません…貴女を試しました」

しかし、そんな言葉彼女には届いていないようで
少女は怯えたように頭をたれ
只管“申し訳ありません”と呟いている

「聞きなさい…アイーダ」

そしてジャーファルは今までとは比べ物にならないくらい優しい声色で彼女へと言葉を紡いだ

「私が暗殺者に扮し王を攻撃し、貴女が王を庇えばシロ、見捨てればクロ…クロとなれば私は純銀製の針で貴女の延髄を突き殺そうと考えていました…ですが貴女は身を挺し暗殺者に立ち向かった…」

そっと彼女の頭に触れると、一瞬ビクリと肩が揺れる
しかしそのままそっと頭を撫でると、アイーダもそれに身を任せるように目を閉じた

「合格です…貴女をシンドリアの食客として迎えましょう」

その日のうちにアイーダは今まで暮らしていた時計塔の地下室を離れ
食客たちの住む緑射塔へと引っ越す事となった

「室外から鍵は掛けないんですか?」

新たな部屋へと案内してくれたジャーファルを見上げアイーダは小さく呟く

「もう貴女を警戒する必要はありませんので」
「部屋から自由に出ても良いのですか?」
「ええ、好きになさい」
「図書館に行っても良いですか?」
「ええ、ただし閉館時間は守るように」
「庭園に出てもいいですか?」
「ええ、ですが狼の姿となり官吏を恐がらせてはいけませんよ」

アイーダはそわそわと落ち着かない様子でジャーファルへと問いかけた
そんな様子にジャーファル苦笑しつつ
彼女の頭へと手を置く

「遠慮はいりません、貴女の忠誠心は本物でした…私もシンも貴女を仲間として信頼します」

そして穏やかに微笑むジャーファルを見上げつつ
アイーダもはにかんだ様に微笑んだ



NEXT
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ