管理人の宝箱

□財宝9:空を飛んだ日
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初めて空を飛んだのは、何時だったか。
翼を持ってしまったことが、どんなことだったか。
問われるまで気付かなかったそれは、ある日突然飛び込んできた存在によって、自分の意識の中に潜り込んできた。


「おれが、二番隊隊長…?」
「お前が適任だ。頼めねェかい?」
「いや、まだ日が浅ェし…いいのかって。」

ついこの間仲間になった新入りは、あれよあれよという間に名を上げた。戦闘の実力もさることながら、あっという間に船員の中に溶け込み、信頼や人望も厚くなった。
それで、ずっと欠番だった二番隊隊長へと自分が推薦したのだった。オヤジに問うと、「若ェのが一人くらいいても面白ェじゃねェか」とあっさりOKが出た。

「荷が重いか?」
「んなことはねェ!!」
「ははは、じゃあ決まりだな。頼むよい、隊長。」

少しからかってやると、予想通りの反応でエースは意気込みを見せた。
こいつなら大丈夫だ。あっという間に仲間に溶け込んだ気質は、こいつの才能でもあるのではないかと思った。
ついこの間までオヤジの首を狙い、船員にも噛み付いてたっていうのになァ…そんな思い出がマルコの脳裏に過ぎった。

「何か分からねェことでもあったら聞いてくれ。一応先輩だからよい。」
「おう、ありがとうマルコ。」

こうして、エースは二番隊隊長へと任命された。
その夜は就任祝いということで、モビーディックは盛大な盛り上がりを見せていた。みんなが酒を注いでくれる中で、その輪の中心人物は笑顔を絶やさなかった。

「寂しいかァ?マルコ隊長。」
「何が言いてェんだい。」

いつものように離れたところで静かに飲んでいると、いつも煩い四番隊隊長が声をかけてきた。

「何って、お前の本心?」
「だから、何が言いてェんだっての。」
「可愛い後輩が隊長になっちまって、ちょっと寂しいんじゃねェの?」
「推薦したのはおれだ。」
「またまた強がっちまって、先輩。」
「うるせェよい、エースに酒でも注いでこい。」

はいはい、とサッチは賑やかな輪の中へと入っていった。
まったく、あの野郎は……正直、変なところばっかり勘が鋭い。

寂しい、か…全くないといえば、嘘になるよい。
あいつが仲間になってから、半年と少しか。意外に礼儀正しい少年は、茶を出した自分に気遣いを見せてくれた。聞いたのは、炎の能力者であること。それから、弟がいること。
血が繋がっていないという弟の話を、随分楽しそうに話してくれた。かなりの弟思いなのだと、そのときはそんな印象を受けた。そして、本当は思いやりの深い奴なのだと。

「マルコ。」

思いを色々巡らせていると、意中の人物が自分を呼んだ。

「エース。どうした?」
「いや、マルコっていっつも離れたところで飲んでんなーって。」
「そうだな…悪かったな、今日は祝いだ。」

持っていたグラスに酒を注いでやると、エースは照れ臭そうにそれを口にした。

「マルコ…色々ありがとうな。」
「ん?何だよい、急に。」
「お前には世話になったからな。」

にっと笑い、「お世話になりました」とエースは頭を下げる。その様子に、思わず笑いがこぼれた。

「お前は…相変わらず変に礼儀正しいな。」
「変には余計だぜ。」
「ははっ、本当のことだ。」

喧騒から離れた甲板の隅で、穏やかに波の音が空気を包む。
ほんのしばらく沈黙で酒を飲んでいると、エースがふと、マルコへ問うた。

「なァ…初めて空を飛んだのって何時だ?」

思いがけない質問に、マルコはグラスを煽る手を止めた。

「どういう気分だった?」
「お前はまた不思議なことを聞くなァ…」
「そうか?だって普通は出来ねェだろ?空を飛ぶなんてよ。」

確かにそうだが。
少し考えてからエースを見やると、好奇の目をしているわけでもなく、海の向こうを見つめたまま…何か考えているようだった。

「また、弟のことか?」
「ん、マルコよく分かったな。」
「お前が考え事してるときは、大体そうだからよい。」

バレたか、とエースが笑う。
弟思いなこの男を案じたマルコは、思い付いて口を開いた。

「エース、プレゼントをやるよい。」
「は?」

言うと、能力である不死鳥へと姿を変えた。そして、自らの背中を指した。

「隊長就任祝いだ。」
「乗っていいのか?!」
「特別だぞい。」

よっしゃあ!とガッツポーズを決めて、エースは早速マルコの背中に飛び乗る。
首に腕を回したのを確認すると、マルコは思い切り助走をつけて飛び立った。
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