紳士達の暴走部屋

□禁じられた遊び〜第二章〜
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「お〜聞いたとおり最高の眺めだな」
浴衣の紐を結びつつイゾウは感嘆の声をあげた。

予想通りビスタから誘いがあり、例の客室でワインをいただく事になったイゾウは、外で夕食を済ませた後ビスタの元を訪れた(本当は夕食も誘われたのだが、街のレストランの方がくつろげるため丁寧にお断りした)。そして、部屋のシャワールームを借りている間にビスタに準備を任せ、現在に至る。


「素晴らしい眺めだろう。是非お前にも見て欲しくてね」
すっかりテーブルを整え、仕上げにワインをグラスへ注ぎながら、ビスタはニヒルな笑みをイゾウに向けた。
振り向いたイゾウは意味ありげな薄い笑みで、
「あぁ、来て良かったよ」
と返し、ビスタの元に歩み寄ると、用意されたグラスを手に囁いた。
「素晴らしい夜に・・・」

静かに杯がかわされ、席についた二人はいつものようにゆっくり語らい始めた。
アイスワインの感想に始まり、街で見かけた店の事や造形物の事・・・話題は尽きることがない。
あっという間に2本目があけられ、ビスタは注ぎ終わると肩をすくめて苦笑した。
「もう空だ。昨日の比ではないが早いものだな。追加するかね?」
「いや、これで終わりにするよ。あまり飲みすぎると今後に差し障るからな」
イゾウの妖艶な笑みにビスタの手が一瞬止まる。
静寂を破る水辺に投げられた石のように、コツンとテーブルに置かれた瓶の音が部屋に響いた。

「相変わらず忙しい身だな。送ろうか?」
普段どおりのニヒルな笑みで語りかけて来たビスタに、イゾウも普段どおりの薄い笑みで返す。
「とぼけるなよ。分かってるくせに」
イゾウは椅子の横に置いていた鞄から小瓶を取りだし、囁くように先を続けた。
「この島でしか咲かないスノーフラワーで作られたオイル。結構高かったんだぜ。触りたいだろ?俺の身体・・・」
イゾウの言葉にビスタの眼の色が微かに変わった。
しかし口許にはニヒルな笑みを浮かべたまま口髭をひと撫でしながら感嘆の声をあげた。
「何故そう思ったのかな?」
「勘さ。確信したのは部屋に入ってからだ。花が飾られていなかったからな」
楽しそうにワインを口に運びながらイゾウは答え、ワインを一気に飲み干し、わざとらしく口許を拭うように指で唇をなぞった。
そして、ゆっくり立ち上がるとベッドの前で浴衣をさらりと脱いで一糸纏わぬ姿になり、妖艶な笑みで女王様の如く言い放ったのだった。
「足腰が結構疲れてるんだよな。念入りに頼むぜ」



イゾウの体温で温まったオイルは甘く上品な香りをベッドに放ち、昨晩とはまた違ったムードが部屋に漂う。
部屋に響くのは、オイルが肌の上を滑る粘着質な水温とビスタの耳に心地よい低い声。そしてイゾウの艶っぽい息づかいとそれに全くそぐわない淡白な言葉。

「肩胛骨あたりも結構疲れてるようだ」
「ん・・・そうだな。そこ最高に気持ちいい」
「ふふ、それは良かった。よし、背面はこんなもんかな」

ビスタの言葉にイゾウは大きく吐息をもらし寝返りを打った。陶器のように滑らかな肌が薄暗い明かりに照らされ、男色家が見れば涎を垂らすであろう光景が眼前に広がり、ビスタは深く溜め息をついた。彼に男を抱く趣味は無い。ただ純粋に美しいものを愛しているのだ。
オイルをゆっくりと足の先から太股へ塗布し、軽く全体をマッサージしながら、ビスタはうっとりした眼で窓の外を眺めているイゾウに語りかけた。
「相変わらず足の先まで美しいな。ワの国の海域一帯の人間はどうしてこんなにも肌のキメが細かいのか・・・まさに神の芸術と呼ぶにふさわしい」
「ふふふ。お褒めいただいて光栄だよ。あぁ〜いいね。足の甲んとこ、一時間でもやって欲しいな」
ビスタは軽く笑って返すと念入りに足の甲を擦り始め、イゾウは満足そうに
「美しい夜景を眺めながらマッサージなんて贅沢な一時だ」
と呟いて・・・
ふと枕の下に落ちていた金髪が眼に入り、それをそっとひと撫ですると
“アイツはどんな面してここにいたのかねぇ・・・ああ見えて可愛いとこあるからなぁ。少し見てみたい気もするぜ・・・”
と心の底で呟きながら薄い笑みをビスタに向けた。
「ふふ。やけに楽しそうだな。何を考えていたんだ?」
ビスタの問いにイゾウはゆっくり起き上がり、目の前でニヒルな笑顔を浮かべている男の口髭を撫でながら不敵な薄い笑みを返したのだった。

「お前の観察眼をもってすれば語らずとも明らかじゃないのか?・・・見抜いてみろよ」
<END>

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