管理人の献上箱

□(旧)日誌I:ベルガモットは危険な香り
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机の上でもらった紙袋の中身を開封すると、柑橘系のフルーツの絵と“ワンダーベルガモット”という文字が描かれた箱がお目見えした。中身はと言うと数種類のケア用品で、クリエルは喉の奥で笑い声を立てた。
「街の特産品だな。くく・・・遠回しに汚ねえって言われてんじゃねえか!」
ラクヨウは拗ねるように口を尖らせ「うるせえ!」と短く叫ぶと、中身を手に取りチェックし出した。
「ふ〜ん、これがシャンプーでこっちがトリートメント、ボディソープ・・・おっ!オーデコロンもついてんのか!ビスタらしいな〜」
「感心してないでシャワー入れよ。その汚い編みこみも全部ほどいて綺麗に洗え。爪の間もしっかり洗うんだぞ。女は細かいとこまでチェックするからな」
楽しげなラクヨウに水を差すクリエル。何度も言うが彼には全く悪気はない。
「いちいちうるせえな。経験値低いお前に言われたくねえやい!」
抗議の声をあげるラクヨウもクリエルの性分を重々承知しているので特に根を持つ事はなく、鼻唄を歌いながらシャワー室に向かい、クリエルはその背中を見送ると、空いた机に今日手に入れた武器を広げ、早速分解掃除を始めたのだった。

そして30分後・・・
静かな空気はラクヨウの叫び声によりあっさり破られた。
「どうだ!このビフォーアフター!」
後ろから投げ掛けられた言葉をクリエルは無視し、振り向かずに作業を続けながら一言呟いた。
「まずパンツをはけ」
予想外の言葉にラクヨウは丸い眼を更に丸くし、
「なんで分かるんだよ?」
とパンツを穿きながら問いかけた。クリエルはようやく作業の手を止め振り向くと、射抜くような鋭い眼でラクヨウの丸い瞳を見据え、
「何年の付き合いだと思ってるんだ?お前の行動は手にとるように分かる」
と、特に得意気でもなく淡々と告げた。
相変わらずドライな奴だ。ラクヨウは心の中で悪態をつき、「あぁそうかい」と一言で片付けると気を取り直して、にんまりと笑った。
「で、どうよ?」
クリエルは頭のてっぺんから足のつま先まで視線を走らせ・・・満足げに頷いた。
「ふむ。素晴らしい改善だ。いい香りがする。流石はビスタだな」
ラクヨウはえへんと胸を張った。そして、さらりと、悪びれなく、とてつもなく面倒な頼み事をさも当たり前かのように切り出した。
「感心してねえで髪編むの手伝えよ。結構手間なんだぜ?」
クリエルの顔が瞬時に歪む。それはもう苦々しさが滲み出た表情で、
「はぁ?なんで俺が手伝ってやんなきゃなんねえんだ面倒くせえ!」
と地から沸き上がるような低い声で迫ったがラクヨウは全く気にする様子もなく、
「なんではねえだろ!友の幸せを願う気持ちはないのかお前はぁぁ!」
と切り返し、その溢れんばかりの熱意に押し負けたクリエルはがっくりと肩を落としたのだった。
「はぁ・・・分かった。やればいいんだろ、全く」
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