めいん1
□白山熱中
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「銀八、あちぃ」
ぼろいアパートの一室。
へたれた畳に突っ伏した高杉は、気だるげに数十回目の抗議を繰り返していた。
俺の住処である築30年のアパートは、ここ数日の蒸し暑い天気にやられていた。
クーラーすらつけていない貧乏な俺にはこの季節はきつい。
加えて今年から我侭な恋人が転がり込んで来たのだから、もうたまったものじゃない。
「なー、扇風機もねぇの?」
「去年で寿命。もういねー」
「まじか」
余計に暑くなってきたと騒ぎ出すから、こっちまで暑さが増したように思える。
もう動く気力もなくなって、作りかけの資料を放り投げて、高杉の横に転がった。
「仕事してたんじゃねーのかよ」
「うるせーし暑いからやめた」
寝転がってみても、纏わり着くような空気は変わらないままだった。
隣をみれば、高杉の顔にも汗が浮かんできている。
根っからのお坊ちゃまだから、このままだと熱中症にでもかかりそうだ。
とりあえず水分とらせようと重たい腰をあげ台所に向かう。
冷蔵庫をあければ耳ざとい高杉が甘えた声をあげる。
「銀八ィ、氷も欲しい」
「はいはい、氷な」
冷凍室を開けた時、製氷機の横のモノに目がとまった。
丸い、深めの容器。
俺の大好物を生み出すそいつの存在に、なんで今まで気付かなかったんだろうか。
「高杉、ちょっと予定変更」
「は?」
「いいもん作るからこっち出て来い」
台所の隅に埋もれていた機械を取り出して、高杉を呼ぶ。
ゆっくりとした足音が近づいてくるのを、柄にもなくわくわくして待っていた。
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