めいん2

□涼夏扇子
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 今日も朝から太陽の容赦ない光線が降り注いでいた。

 文月も後半、次第に増してくる暑さにいい加減に辟易してくる。
 清正は真っ青な空を見上げてため息をついた。

 愛用の片鎌槍は、所在なさげに部屋の片隅に置かれている。


『いい清正?雲もない時に外で鍛錬しちゃだめだからね!』


倒れたりしたら大変だからとねねから言いつけがあってもう半月。
 
 鍛錬場には通っていたが、兵士たちであふれかえる内部では満足に槍は振れない。
 加えて一通りの仕事も片付き、清正は暇をもてあましていた。

 暑さに外へ出かける気にもならない。書を読んで頭も使う気にもならない。
 しかし一人で部屋にいるのも妙に侘しい気がして落ち着かないのだ。

 そうなってくると、清正の脳内には自然と最近思いを通じた恋人の姿が浮かぶ。
 今頃執務の最中だろうが、部屋の隅にいるくらいなら迷惑もかかるまい。


「様子見に行くかな……」


 先ほどまで重たかったはずの腰をあげ、清正は年甲斐もなく足早に廊下を歩く。
 日が照り熱を持った廊下を歩くだけで額に汗が浮かぶ。
 廊下の端に構える三成の部屋にたどり着くと、入るぞ、と一声放ち戸を引く。
 室内を覗けば、扇と書を手に机に向かう三成の姿があった。


「なんだ、いきなりどうした?」


 三成は書から目を離し、清正の方へ向き直る。
 普段は一瞥くれるだけで目を向けないものだから、珍しげに書と三成を交互に見る。


「それ、もういいのか?」

「ああ、執務は終わった。久々に読書をと思ったが、この書は面白くない」


 眉間に皺を寄せるのをみると、そうとうつまらないらしい。
 またちょうどいいときに入ってきたものだと清正は苦笑する。

 そのときふわりとゆるい風が頬を撫で、風の元を目で追った。
 見れば三成が藤色の扇子をゆるく振っている。


「今日はまた随分と暑いな清正」

「そうだな」


 清正の答えに三成は愉快そうに笑った。


「幸い俺にも時間がある。夏の恒例行事でもするか」


 清正が言葉の意味を理解する前に、手を引かれ三成の股に倒れこむ。
 三成の顔を仰ぎ見ていることに気がつき、起き上がろうとするのを額を押さえられ止められる。


「おい、三成!流石にもう俺は」

「暑いのにやせ我慢するな。大人しく寝ろ、お虎」


 優しく微笑み紡がれた言葉と、冷たく心地よい手に、清正は反抗できず大人しく膝を枕に寝転んだ。
 満足げに三成は頷くと、再び緩やかに扇子をふり始める。

 戦場で鉄扇を振り回す姿からは想像もつかないほど、三成は穏やかな顔で優雅に扇子を振るう。

 しなやかに曲がる手首から生み出される、柔らかい風。
 微かに熱が溜まった頬を冷やす風の心地よさに、清正は目を閉じ記憶をたどり始めていた。




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