めいん2

□深層本命
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「清正っ…俺は、もうだめかもしれぬ…っ!」
「ちょ、おい、三成…」

泣き濡れた顔で勢いよく腕の中に飛びこんできた三成を清正は何とか抱きとめる。

「きよ、清正…お、俺は…も…!」
「とりあえず落ち着け。話ができる状態にしろ少しは人目を憚れ」

開け放たれた襖から覘く侍女たちの視線が痛い。
意味深に見つめてくるがこれはお前らの期待しているようなのじゃないぞ。

「おみわ!」
「は、はい」
「襖を閉めて人払いしろ。勿論お前もだ」
「承知致しました。腐腐、遠慮なく励んでくださいませ」
「…そうか、お前は肥後勤めがしたいようだな」
「いえ殿、私の本命は宗清でなく清三でございます!」
「いいからさっさと出てけこの腐女子が」

ようやくのことで侍女どもを追い出して俺は三成に向き直る。
とりあえず顔拭けと手拭を渡して落ち着かせるために背を叩いてやる。

こんなことをしてはいるが俺たちの関係は清三ではない。断じてない。
こいつの本命は、別のやつである。
ざまあみろ、お前の本命は救われないぞ。
使えはするが腐った侍女に内心で毒を吐く。
そのうちに三成の嗚咽は大分収まってきていた。

「清正、俺は、左近に振り向いてもらえぬかもしれぬ…」

そう、こいつの本命は牢人軍師、島左近である。
その才もさることながら頬に傷もつ筋骨隆々な親父に、三成は惚れてしまった。
だが当の本人は三成の思いをぬらりくらりとかわし続けている。
腹立たしいことこの上ない。
だが三成より大人で頼りになる弟の俺は、冷静に言葉をつむぐ。

「なんかあったのか?」
「今日、また勧誘に行ったのだが…そしたらな、ひくっ…」

またしゃくりあげはじめた三成の話を簡潔にまとめるとこうだ。
戦友と話をしている左近を見つけ勧誘に行ったが馴染の店が空く時間だからと立ち去ってしまった。と。

「清、やはり女子でなければだめなのだろうか…俺では選ぶ対象にすらならぬのか?」
「いや、それはない」
「そうなのか?まだ選んでくれる余地はあるのだな!」
「ああ、俺の主観だが、見込みはあるぞ」

大丈夫だ、もう少し押してみろ、といってやれば三成の顔に明るさが戻る。
三成は賢い反面こういう方面では正則より疎い。
こんななんの根拠もない俺の主観を容易く飲み込み、信じるほど。

これはあくまで俺の主観だ。
つまり俺なら選ぶ、俺ならお前は対象内なんだ。

『だからもうそいつはあきらめて俺にしとけ』

そういってやりたいが俺の中のなにかが邪魔をする。
ちくしょう、こんなはずじゃないってのに。
自分で自分に毒づいて、俺はまた三成の背を押す。

「わかったら泣き止め。次は捕まえてこいよ」
「ああ、ありがとう清正」

三成はいつもの凛とした表情を浮かべ立ち上がった。
少し目元が腫れてはいるが完全にいつもの調子に戻っている。
一旦決めると早い切り替えに僅かに呆れる。

「雑務を片付けたらまたいってくる」
「ああ、頑張れよ」

ぱたりと襖が閉められると、急激に体の力が抜けた。
胡坐のまま後ろに寝転がる。
本当に何をしてるんだ俺は。

「馬鹿か、俺は…」

ひっそりと呟いたところで控えめに奥の襖が引かれた。

「殿…」
「出て行けといっておいたろうが」
「申し訳ございません…ですが…」
「残念だったな、お前の本命は成立しないぞ」
「殿の本命も、でしょう?」
「…黙れ、今度こそ出て行け。一人にさせろ」
「…失礼致します」

半ば強引に襖を閉める。完全に八つ当たりだ。
あいつの言ったことはあたっている。
幼い頃から俺の本命はあいつだった。
それなのに、今、俺は何をしている?

「…次、次までだ」

次、三成が泣いて帰ってきたら、俺のものにする。


「だから、成功するな」








最低な祈りをして十数日。
俺の部屋に飛び込んできた三成は満面の笑みだった。

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