めいん2

□今日だけは
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「明日はずっと一緒にいてくれ」


弱弱しく懇願する姿に、資料へ向けていた意識が引き戻された。
いつの間にか二人掛けのソファの傍らに恋人が腰かけ、こちらを向いている。
縋るような、それでいて強くこちらへ向けられた眼差しを見るのは、付き合い始めて2度目のことだ。

「有給はもらった」


付き合い始めてから半年、この人は我が侭らしい我が侭も言わなかった。
自分でもあきれるほど、俺もこの人も仕事に生きてきた。
同じ職場で働いているのにも関わらず会えない日が続くことも多かったが、
仕事ならば仕方がないとそっけないくらいの付き合いを続けてきただけに、突然有給をとってくれと言われたのには驚いた。
いつの間にか互いの有給をねじ込まれていて、
その日は一日中家の中で寄り添って過ごしたのだ。

落ち着いて過ごせたのは良かったが、なぜ今日かと理由を聞いてみても頑として答えてはくれなかった。

気まぐれだろうと無理やり納得させたが、今回2回目だ。
一緒にいられるのはうれしいが仕事もそう何度も休めるものではない。
何よりこの人は自分よりも優秀な上役だ。そう何度もこういうことがあっては困る。
恋人といる間でもこんな考えをしてしまう自分の仕事脳に呆れるが、これは本当に死活問題だ。

「理由はなんです」
「清興、」
「ただ二人の時間を取りたいなら、スケジュールを調「それではだめだ!」

必死な叫び声に、己の声は最後まで届くことなくかき消される。
今までに聞いたこともないような大声に、また仕事に向きかけていた意識を引きつけられる。
じっと端整な顔をのぞきこむと、少し潤みかけた双眸がこちらを見つめていた。

「この前と、明日だけでいいのだ。これ以上無理は言わん」

この言葉は本当だろうと思う。
嘘や不正を嫌うこの人には、惰性で甘える女のような真似は出来ない。
それはわかるが、どうしてこの2日なのかが気になった。
明日は土曜で、一日まてば久々に二人一緒に休みが入った日曜がくる。

それなのになぜ、この人は。


黙ったままでいると、目の前の顔が本当に切なげに、さびしげに歪んだ。


「やはり、思い出さないのだな……」
「なんのことです…?」
「…いや、なんでもない」
「なんでもないような顔してませんよ」


ソファから立ち上がろうとした腕をつかむ。
なぜか今この手を離してはいけないような気がした。
今にも涙がこぼれそうなほど、瞳は潤んでいる。



「……なら、思い出してくれ


  左近」




その響きがやけに懐かしかった。


この 呼び名は




「……左近?」

固まってしまっていた俺のほうを、今にも泣き出しそうな端整な顔がのぞきこんでいる。

先ほどまで見ていた顔だが、とても懐かしい顔だった。
意識するより先に、口が動く。


「すみません殿、大分お持たせしてしまったようで」
「遅いのだよ、左近……っ」


途端に泣きだした主を、腕の中に引き寄せる。
ふと目の前の時計が目に入り日付が変わっていることに気がつく。
既に今日は、意味のある日になっている。
今までの贖罪も何もかもを含めて、しゃくりあげている主を思い切り抱きしめる。
今言えることは、ひとつしかなかった。



「殿、お疲れ様でした」





―― 2011年10月1日 ――

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