黒子と美琴A
□空からのプレゼント
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とある冬の日…
『……ん…』
ムクッ…
いつもの様に美琴よりも少し早く目覚めた黒子…
『…あら?』
一瞬カーテンの隙間から見えた外の景色を確認しようと、窓へと歩み寄る…
カーテンを手で払い、少し驚いてから窓の外を眺めた…
(確かに昨夜は天気予報を見ませんでしたし…今朝は冷えると思ってましたが…)
『…雪…ですわね』
空からはヒラヒラと粉雪が舞っていて…
夜中から降っていたのだろうか?
無機質なコンクリートは既に雪に隠れていて…
『…フフッ♪』
この分だと積もりそうだな…
と思って思わず笑みを溢した。
慣れない足場に怪我人がでるかもしれないし、自分も足場が雪で動きにくいと、
風紀委員の活動に支障が出るかもしれない事を考えると、
黒子にとっては本来喜べるものではないのだが…
まだ雪が降っている事などしらず、スヤスヤと寝息をたてている大好きな人が、
降り積もった雪をみて大ハシャギするであろう事は目に見えているので、どうにも頬が緩んでしまう…
(お姉様…喜びそうですわね♪)
カーテンを戻して美琴に近寄る…
いつも通り、怒られないうちに可愛い寝顔を拝見しようと企んでいたのだが…
『…お姉様…?』
美琴はいつものように、少しあどけない可愛いらしい寝顔…
…ではなく、
うっすらと額に汗をかき、寝苦しいのか何度も寝返りをうちながら唸っている…
「…ゔ〜…」
熱があるのはすぐに解った。
問題はどれ程の不愉快さが美琴を襲っているかで…
額に手をあてる…
(…だいぶ…高いですわね…)
「…ん…?あ、あんた一体…何して!?……っあれ?」
ふいに人の気配を感じて、
目をあけてみれば変態同居人が自分の額に手をあてていて…
何をしてるのかと、黒子の手を払い除けようとするも…
(…力が入らない!?
それになんか…身体も熱いし…)
「黒子…あんた、私に何かした!?」
身体の異変に対して真っ先に思い付いた理由は、
この、隙あらば自分を手込めにしようと企んでいる後輩が、
自分に何か怪しげな薬でも盛ったのではないかということ…
全て回避してきたとはいえ、
過去に何度もそんな様な事があったし、起きたらいきなり肌に触れられているので当然かもしれない…
『お姉様…』
疑いの眼差しを向けられて、黒子は小さくため息をつく…
『わたくしは何もしておりませんわ?
お姉様は熱がありますの。それもだいぶ高熱の様ですわ…』
「熱?」
そう言われれば、
確かに熱があるという感じだ。
黒子が自分の額に手をあてている理由にも納得いく…
「ごめん…でも…」
疑った事には素直に謝りつつも、気になる事が一つ…
「いつまで…手を置いてる気!?」
熱の高さを調べる為に、額に触れているのは解る…
解るが美琴が起きてからもずっと手を置いている必要はあるのだろうか?
『ウフフ…熱で無抵抗なお姉様。ゆっくりとお姉様を堪能するのは今がチャンスですの♪
もちろん飽きるまでですわ♪
一生飽きそうにありませんが…ウフフ…』
もちろん必要性はない。そこにあるのはただの私欲…
「…ハァ…どけて!?」
『嫌ですわ♪』
予想通りの黒子のリアクションにため息をつく…
強めの口調で言うものの、黒子は自分の欲望を満たすことに真剣だ…
だが、美琴だって黒子の扱い方は心得ている…
「黒子…重い。頭痛い…」
一転して弱々しい口調で呟くと、黒子はスグに手を離した。
黒子は、怪しげな薬を盛ろうと企む様な輩ではあるが、
本当に美琴に危害を加える…
それに関しては絶対にしないだろう。
という自信を持っている。
そうでなければとっくに危害を受けて、即座にルームメート解消している所だ。
まぁ、たまに本気で危ないんじゃないかと思う事もあるが…
今回の様に、
美琴が少し不愉快そうな顔をすれば止めてくれるのは事実であって…
そういう意味で、
変な信頼感を抱いてはいる…
美琴から手を離した黒子は、
パタパタと洗面所へ走って行った。
音から察するに、
水でタオルを濡らしているのだろう…
決して口に出すつもりはないのだが、
(口にすればどんな勘違いをされるかわからない為)
どんな時も、自分に尽くしてくれる後輩の存在に感謝していたりもする。
『お姉様…』
恐る恐る髪をかきあげて、冷えたタオルをのせてくれる…
照れくさくて言えないありがとうの変わりに、
「…別に怒ってないから。」
と言ってみる。
素直に感謝が言えない自分だが、黒子は自分の言いたい事を察してくれる事も解っている。
ほら、やっぱり照れくさそうに笑った。