黒子と美琴A
□道化師は泣かない…
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あぁ…イラつく…
いや…
悲しい…
「はぁ…」
学校からの帰り道。
足取りは、重い。
理由。
嫌な事があったから
―――
――
遡る事10分前。
ルームメートは風紀委員の勤めをはたしに支部へ…
レベル5で一般人の私は寮へ…
まぁ、いつも通り。
途中、コンビニに寄って立ち読み。
まぁ、いつも通り。
「常磐台のお嬢様が立ち読みしてる…」
『ほんとだ…お嬢様っぽくねぇな…』
こんな会話が聞こえてきたが、
それもいつも通り。
とりあえず無視。
それもいつも通り。
『カツアゲでもしてみっか?なんて♪』
「バカ!ナンパだろナンパ♪可愛いお嬢様達と知り合いてぇだろ?」
まぁ、たまにある。
とりあえず無視。
『ナンパっつってもよぉ、ブスをナンパしたって…』
一人の男が屈む。
顔を覗き込む為。
『ぅお!?』
「なんだ?そんなヒデェのか♪」
『違う!!マジで可愛いって!』
たまにある。
いや、自惚れじゃなくて。
本当にたまにある。
「どれどれ?」
一人の男が屈む。
顔を覗き込む為。
「ぅお!?」
『な!?可愛いべ♪』
「バカ!アイツ超電磁砲だよ!」
『え!?マジで?』
これはあまり無い。
顔を見ただけで私が超電磁砲だとバレる確率は低い。
『超電磁砲ってあれだよな?有名だからって男引っ掛けまくって手玉にとってるっていう…』
「レベル5ってのを鼻にかけて、わがまま放題好き放題やってんだってな…」
これは滅多に無い。
くだらない噂が一人歩きしているのは知っていたけど…
私本人の前で、それを口にする奴は滅多に居ない…
ギロリと男共を睨みつける。
状況は違えど、これはよくある。
バカ達のお陰で、最近目付きが悪くなった気がする。
『やべぇな…向こう行こうぜ…』
「お、おう。あの目見たかよ?人を人と思ってないあの目。
なんの躊躇いもなく殺されちまうぜ…」
ここまで酷い言葉を聞いた事は、ほとんど無い。
そしてそれを聞いていた周囲の人達が、腫れ物を見るかのような目で私を見る。
そんな経験もごく僅か。
居心地が悪くてコンビニを出る。
一度振り向くと、全員が私を見ていて、全員が瞬時に目を逸らした。
無い。
無い無い無い!
私は悪く無い!!
必死に自分に言い聞かせる。
久しぶりの感覚。
滅多に無い事だけど…でも、過去に無かった訳じゃない。
そんな訳で足取りが重い。
イラついているのか悲しいのか…
自分でもよく解らない。
ただ、なんかもやもやする。
こんな時は思い切り泣くに限る。
私らしくないけど。
私だって一応女の子だし。
まだ中学生だし。
泣いてこのもやもやを全て涙と一緒に捨ててしまいたい。
思い切り泣きたい。
でも…
それは許されない。
貴女は私を泣かせてはくれない。
―――
――
『お姉様♪ただいま〜ですの♪』
「おかえり〜」
コンビニで立ち読みした時間。
コンビニからの帰り道が、物凄くゆっくり…たまに立ち止まってしまった事。
黒子が所属している支部の周囲で大きな事件が起こらなかった事。
そんな理由が重なって、私が帰宅した十数分後に部屋のドアが開いた。
ドアを開いた人物のご機嫌な声に、
体勢は椅子に腰掛けて、視線は本に向けたまま応える。
そんな私の態度に黒子は沈黙。
いつも通り…
ではない。
いつもならそんな態度をとっていたら、
『たぁだぁいぃまぁですのぉ♪』
と、甘ったれた声で自分が納得いく返事が帰ってくるまでしつこくまとわりついてくる。
『ここに来る途中で寮監とすれ違いましたわ♪こんなに暑い日もスーツとは不憫ですわよね。いっそのこと半袖短パンで過ごせばよろしいですのに♪』
ケラケラと笑いながら、鞄を自分の机に置く。
半袖短パン寮監ね…
ちょっと笑える。
更にそんな寮監に首を狩られる黒子。
思わず吹き出す。
…いつもなら。
でも、今はそんな気分ではない。
「そんな格好じゃ寮監としての示しがつかないじゃない…。
生徒は生徒らしく…が規則なら、寮監は寮監らしく…も規則なんじゃない?」
変わらない体勢。
変わらない視線。
変わらない気分。
『規則なんて破ってなんぼ、ですわ♪』
こんな台詞もいつも通り…
ではない。
やむを得ない事情や優先順位によって破る事もあるけれど…
基本、黒子は規則を守る人間。
そういう性格。
むしろ、普段は口うるさく規則がどう…
なんて言い張る立場だ。
「そうね。」
本を読む私に黒子は言う。
『わたくし、ちょっと書類をまとめますわね♪』
「どうぞ。」