リハビリ
□Again
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パタン、とドアが開いて。
『ただいまですの〜。なんとか門限に間に合いましたわ♪』
なんて呑気に笑って。
あ、また怪我して来たな。
なんていうのは、予想でもなんでもなくて。
統計学とか心理学とか、その他諸々に裏付けされた、事実でしかない。
表情、声。
それだけでも解るけど、帰宅して抱き着いてこないのであれば、それはもう100%以上の確率な訳で。
「おかえり、本当ギリギリだったわね。」
まぁそれを追求した所で、返ってくる返事は変わらないから、もう何も言いやしない。
『えぇ。わたくしに罰則を与える為に、寮監がトラップを仕掛けたのかと思う程でしたわ。』
「悪趣味な発想するわね。」
『だってぇ、本当に酷いんですわよ?』
そう言って、身振り手振りしながら大げさに帰宅が遅れた理由を話す。
実際はどうせ…
傷が痛んでろくに演算もできず。ふらつく足で懸命に…
私に連帯責任の罰則を負わせない為に。
私に心配をかけない為に。
そう、懸命に足をひきずり帰宅したのだろう。
それなのに、どうしてこう。遅れた理由が次から次へとポンポン出てくるのか。
こんな時の為に用意した、
嘘話は。
或いは、今日では無く、過去に実際起きた出来事は。
いったい、あといくつあるのだろうか。
そんな話を、これまでにいくつ聞いたのだろうか。
夕飯を終えて、入浴を済ませ。
それぞれ自分のベッドに腰掛けて。向かい合って意味の無い談話に熱中する。
「そんなに見たいなら一人で見に行きなさいよ。」
『嫌ですの〜!!恋愛映画はお姉様と見ると決めてますの!ッ…、』
いつもの様に。
だだっ子の如くバタバタと足を振って、私の気を引こうとする黒子。
今の動き。
傷に響いたらしい。
『…そして、甘〜い余韻に浸りながら、お姉様と映画の様なめくるめく甘美な恋愛を…』
一瞬にして切り替わる表情。何事も無かった様に、痛みを隠す笑顔。
今回の様な不気味な笑顔から、ふわりとした微笑みまで。
芸達者な事で。
「んじゃ、主人公が大失恋する映画を見に行く?」
先輩だからね。
乗ってあげるよ。
芸達者な後輩に合わせて、ケラケラと笑ってみせれば、
『なんてえげつないお返事…』
なんて、苦笑いを浮かべてる。
そんな表情一つ一つ…自然と出てるのか、或いは…
「えげつない事を考えてたのは、あんたでしょ!」
『えげつないだなんて…わたくしはただ、お姉様と燃える様な恋がしたいだけですの♪』
「…はいはい。」
その微笑みも。
痛みを隠す演技なのだろうか。
『生まれ変わったら、何になりたいですか?』
いつものファミレス。4人掛けに、3人。
初春さん曰く、黒子は他の支部に書類を届けてから来るそうだ。
直ぐに行くから先に行け、と。
先に来ていた私と佐天さんにその事を告げ、初春さんが席に着いたと同時。
佐天さんからの話題の提供。
「またそれですか、佐天さん。」
クスクスと初春さんが苦笑してるのを見るに、最近学校で盛り上がった話題なのだろう。
『だって気になるじゃ〜ん☆
容姿端麗、成績優秀!運動神経も良くてレベル5でお嬢様な御坂さんが、生まれ変わるなら何になりたいか!』
「む、…気になりますね。御坂さん、教えて下さい!」
「ん〜生まれ変わったらかぁ…。考えた事も無かったわ。そうねぇ…」
輪廻を信じてるとか、信じてないとか。
今はそんなものは関係無い。
もしも。
の話しに、華を咲かせるのはとても楽しい事だ。
自分ならこうかな…なんて。
今まで考えもしなかった事を考える事で、今まで知らなかったたくさんの事を見つけられる。
主に、自分の事。
だから遊び半分、本気半分。
真剣にその問いに頭を悩ます。
「むぅ…生まれ変わったら、かぁ。」
しかしながら今回は、あまりにも漠然とし過ぎてて。
どこまで考えていいのか、解らない。
「ちなみに、佐天さんと初春さんは?」
このままずっと頭を捻っていても、なんだか期待を込めた眼差しを待たせてしまうだけだから。
参考までに、聞いてみる。