イベント&リクエスト小説。

□愛の伝え方
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それは昼休み。
中庭のベンチに腰かけて食事していた時の事。

夏の照りつける陽射しにあてられて、身体が必要以上に水分を欲した為に、黒子が2人分の飲み物を買い足しに行った僅か数分間の出来事だった。

『あの、御坂様…』

「ん?」

呼び掛けられて振り向いた美琴の目に映ったのは、自分と同じ制服を身に纏い、顔を真っ赤にする少女だった。

「どうしたの?」

名字の後に、様…をつけるあたり後輩なのだろう。
どこか緊張している少女に、優しく声をかける。

『あ、あの!これ!読んで下さい!』

そう言って差し出されたのは一枚の封筒だった。
白地に犬のポイントがついている可愛い封筒。

「あら、可愛い♪」

一目見てその封筒を気に入った美琴は微笑んでそれを受け取った。

「でもこれ一体何の手紙って…あれ?」

そう問いた時には少女は遥か遠くに走り去っており、木陰から少女を見守っていた友人2人が少女を手招きしていた。

やがて友人の元についた少女は息を整えてから振り返り、美琴に会釈をしてその場から去った。
友人は称えるかの様な、からかうかの様な表情で少女の肩を叩いている。


「…………」


(もしかして…)

思うところがあって早々に封筒を開け中の手紙を取り出す。

「…やっぱり。」

手紙の内容を読んで美琴は小さく溜め息をついた。

先程の彼女らの行動を見て、以前にも同じ様な事があったなと思い、もしやと手紙を読めばそれは内容も似たような物だった。

美琴の事をこれでもか、と称賛した後に好意を示す文字が書かれており…

「…う〜ん……」

俗にいう、ラブレターという存在を眺めて美琴は再度溜め息をついた。

『おっ姉様〜♪買ってきましたわ♪』

「あ、く、黒子!ありがとう!」

満面の笑みで飲み物を差し出してきた黒子。
慌てて手紙を後ろ手に隠し、つい焦り口調になれば怪訝な顔をされても仕方ないだろう。

『……何を隠しましたの?』

一体この数分間に何があったのか。

なんて事は考えずとも解る事だ。

そう、黒子が目を離した隙に美琴がラブレターを貰うのは、一度や二度では無いのだ。

しかし。

解っていても美琴が隠すのならば、勝手に取りあげて確認する事なんてできないのだ。

普段の言動こそ模範的とはいえないが、
美琴は良識と優しさを兼ね備えているお嬢様であり。

想いを込めた手紙を受け取って、それを気安く人に見せる様な人間ではない。

黒子だってラブレターなんていう、ある意味第一級のプライバシーを覗く趣味等は無いが…
自称美琴の露払いとしては、差し出し人の名前くらいは知っておきたい。


「んっと…なんか手紙を貰って。」

『…ラブレターですか?』

「……うん。」

黒子が手紙の内容を察しているのであれば、これ以上隠すのは無意味と思い、美琴は手紙を膝上に置いて黒子の手から缶ジュースを受け取った。

ジュースを手渡した黒子は美琴の隣に腰かけて、食べかけだったサンドイッチを口に運んだ。

『…今回のは真面目なものでしたの?』

「…うん。まぁ、結構…」

美琴が受け取るラブレターの中には、あまり本気ととれない様な文面のものもある。

書いてる本人が真面目に書いていたとしたら失礼だが、レベル5に対する憧れだけが淡々と書かれている様な…
相手が美琴ではなくてもいいのでは?
という様な、いかにもミーハーな手紙等だ。
そういった手紙の最後に好意を示す文字があっても、
それはただの文字であり。
あまり美琴を悩ませる事は無い。

「……これ…」

『………』

美琴は先程受け取った手紙を黒子に手渡した。

手紙をくれた子には悪いとは思ったが、一人で悩んでいても仕方がない。

黒子は黙々と手紙を読んでいる。
その表情は真剣そのもので…
美琴は三度溜め息をついた。

ミーハー気質なラブレターであれば、黒子は途中まで読んで
『こんな軽々しい内容、ラブレターなんて言えませんわ。』
なんて毒舌を吐く。

しかし、それとは違う…つまり文面から見ても、想いがこもっている事が解る様な手紙であれば、何度も真剣に読み返すのだ。

その姿だけみれば、まるで黒子がラブレターを受け取った様であろう。

そして今回の手紙も黒子は何度も読み返している。

つまり。

黒子にも、この手紙が本当に美琴への想いを綴った本気のラブレターだと解っているのだ。

それはもちろん、ラブレターを受け取った美琴自身も解っている。
だから何度も溜め息をついた。

手紙に込められた想いが強ければ強い程…優しい美琴は心を痛める。

どんな優しい言い回しをしても、返事の結果は相手を傷付けてしまうのだから。
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