黒子と美琴

□Oそれぞれの誇り…
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美琴は泣いている…
黒子の腕の中で…

美琴は泣いている…
苦悶の表情を浮かべて…

美琴は泣いている…
身体を震わせて…

美琴は…


…泣いている…



黒子は腕に力を込める…

何も言えなくて…

ただ…

ただ抱き締める事しかできなかった…


―――――――――

クリスマス翌日…
黒子の怪我が、ほぼ回復した頃…


冬休みに入り、
間もなく迎える新年に、心を踊らせる…

否…

無駄にテンションをあげた若者達が、
街中にはびこっている…

黒子の仕事中、
暇を潰すためにコンビニで立ち読みでもしようかと、
歩いていた美琴の眼前にも、そんな奴らがいた。

一人の少女を、複数の男子学生が取り囲んでいる…

怯えている少女に、
遊びに行こうと
しきりに捲し立てる男達…

触らぬバカに、
痛み無し…

と、見てみぬふりをする通行人達を尻目に、堂々とした体で美琴は少女を助けに向かう。

軟派な学生達に、
声をかけようとした瞬間…

美琴の耳に、
聞き慣れた声と台詞が届いた。

『風紀委員ですの』

突如、男達の目の前に現れた少女は、
右腕に着けた腕章をかざし、
堂々と叫んだ。
いきなり現れた少女に驚いている男達を見てから、
美琴は咄嗟に身を潜めた。

(…黒子…///)

目の前でバタバタと男達をなぎ倒す恋人の姿に、思わず見とれてしまう…

自分が手を出せば、
黒焦げにしてやったであろう学生達を、
地面に伏せさせて鉄矢で拘束していく…

動きを封じられた男達は、バタバタともがくも拘束から逃れる事は出来ない…

だが、誰一人怪我を負ってはいない…
それは全て偶然では無く、黒子の意思によるものだ…

「テメェッ!!」

仲間を次々に戦闘不能に陥れた少女に、
一人の男が攻撃をしかける…

「喰らえ!!」

という狂気混じりの声を発しながら、
周囲に有った看板やら自転車やらを、
能力を使って黒子目掛けて放る…

『…あら?』

落ち着きはらった表情で男を見てから、
黒子は姿を消した…

「グェエッ!!!?」

突然の背後からの蹴りに悲痛な叫びをあげる男…


『無能力者ではありませんでしたのね…
驚きましたわ?』

驚いたと言う割に、
淡々とした口調で語りかけながら、
うつ伏せに倒れた男を拘束していく…

「くそっ!!俺はレベル3だぞっ!?
…こんなガキに!!」
悔しそうに叫ぶ男に更に淡々と語りかける…

『能力を使う時は、もう少し気持ちを落ち着けた方がよろしくてよ?』

頭を持ち上げて黒子を睨み付ける犯人だが、
黒子が指差していた方角をみて、
黙って頭を地面に戻した。

黒子が指差していた先には、
先程能力を使って放った看板等が、
黒子が居た場所より少し離れた位置に落ちていた…

遅れて到着した警備員によって、
車に乗せさせられていく男…

「覚えてやがれ!!」

とでも言いたげに、黒子を睨み付けていた男に、

『もう少し、心に余裕を持てるようになってから、見返しに来て下さいな?』

とクスクスと笑って呟く…

その笑いは、
負けた相手を侮辱するものでも…
車に乗り込む人間をバカにしたものでも無い…

心身共に向上し、自分を見返しに来るのを楽しみにしてる…

そんな風に見えた…

男は一瞬ポカンとした後に、拗ねたような顔をして、

「覚えてやがれ!」

と呟いた…

『貴方次第ですわ』

と笑う黒子をムッとして睨む男の目は、

復讐してやる…
というより、
ライバルに向ける視線に見えた…。


(黒子は優しすぎんのよ…)

一部始終を眺めてい
た美琴は思う…

そういえば前にも、
犯罪者に悔しかったら見返えしてみろ…

なんて事を言っていた気がする…

わざわざ自分から敵をつくる様な事言うなんて…

と、少し怒り混じりに呆れてみるが、

過去も今も、
黒子にそう言われて車に乗り込んでいく学生達が、

目標を見つけて向上心を高めた様に…
少し…嬉しそうに見えてしまうのを考えると、
黒子のやり方を否定する事が出来ない。

幼少時から、親元を離れてくらす学生達の中には、
親からの愛情や、教育をまともに受けていないのでは…
と思わせる人間が多い様に思う…

なれば黒子の様な、
優しさと厳しさを兼ね備えた言動に、

心の奥底に燻っていたものを、取り去られた感覚を覚える者も居るだろう…

コテンパンに叩きのめされた後に、
責めるでも、嘲笑うでもない…
成長を待っている…

という様な笑顔と言葉を向けられれば、
心を動かされる事もあるだろう…

ペコペコと頭を下げる少女に、
黒子は優しい口調と眼差しを向ける。

被害者にはいつだって、心に恐怖を残さぬ様、
ただただ優しく接するのだ…

(黒子…あんた本当…
格好いいよ…///)
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