黒子と美琴

□Sonly my……中編
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真っ白な廊下…
病院の廊下だ。

その廊下をあるく少女が一人。

肩にかかる位の茶髪
気品溢れる少女。


ねぇ、この人誰だか知ってる?

御坂…美琴。

当たり。
じゃあ、この人は?

美琴が入っていった病室のベッド、
様々な計器が身体中につけられた少女。

美琴より、やや赤めの茶髪。背中の真ん中辺りまで伸びた髪は、いつもはツインテールだった気がする。

白井…黒子。

当たり。
じゃあ、貴女は誰?

私?

私は…。

私は…。

―――――――――

ゆっくり目を開いた髪の長い少女に、セミロングの茶髪の少女が語りかける。

「おはよう黒子。」

『…黒、子…?…あの…あなたは…』


セミロングの少女は悲しげな笑みを浮かべながら答える。


「…私は美琴。
御坂美琴。あなたのルームメートよ。よろしくね♪」

『御坂さん…ですのね。わたくしのルームメート?という事は、一緒に住んでいますの?』

「そうよ。あなたは常盤台中学一年の白井黒子。
私は常盤台中学二年の御坂美琴。
私達は、常盤台の寮の一室で一緒に生活していたの。」

『…常盤台。…寮。
なんで学年が違うのに同じ部屋で…』


「うん。疑問に思う事は多いと思う。
無理もないわ。」

『……』

「驚かないで…と言っても、無理かもしれないけれど、冷静に聞いてほしい。」

『…はい。』

「黒子、あなたは今…記憶を無くしているの。」

『……。記憶…喪失…ですの?』

「そう。ちょっと事故にあってね。」

『…そう…ですの』

「………大丈夫?」

『…まぁ…』

「…やっぱり黒子は凄いね。私だったらきっと取り乱してると思う。」

『…やっぱり?
…わたくしは鈍感な人間でしたの?』

「違う違う。そういう意味じゃなくて、強い…って事♪」

『…強い…』

「そう、強い人。」

『………。』

「担当の先生、呼んでくるね。一人で大丈夫?」

『あ、はい…。』

「じゃあ少し待っててね?」

『はい。』


病室のナースコールでナースを呼び、先生を呼ぶ…
という手段もあったのだが、
いきなり、

貴女は記憶喪失です

と言われた人間は混乱するだろうし、少し一人にした方がいいと思った。




数分たって、医者と一緒に病室に戻る。

黒子は取り乱す訳でもなく、上半身だけを起こしてぼんやりと空虚を見つめていた。


病室のドアが開いた事に気付き、美琴と医者に会釈する。

記憶が無くなっているのに、
口調は相変わらずだし、変に礼儀正しいのも相変わらず。

見た目は変わり無い訳だし…。

美琴は、

医者と何やら会話する、黒子であって黒子でない少女を眺める。


今、彼女に対してどんな気持ちを抱いているのか…

それは自分自身にもわからなかった。


―――――――――

「記憶喪失…?」

『はい。患者さんは脳の一部に深刻なダメージを受けていて…今は麻酔で寝ているのでわかりませんが、もしかしたら記憶を喪ってる可能性がある事を、頭に入れておいてください。』

「…わかりました」

「…あの。」

『なんだい?』

「黒子がもし記憶を喪っていたら、どんな風に接すればいいんですか?」

『それは…難しい質問だな。記憶をなくした人間は混乱する…取り戻す。ほとんどがそうだ。
周囲の人間が今までの思い出を語って脳に刺激を与えるのは良い事ではあるが…
反面、早く記憶を取り戻さねば…
どうして自分は記憶をなくしてしまったのだろう…
と、
焦りと自己嫌悪に襲われるだろう。』

「……」


『元より追い込まれた状態で、更に追い討ちをかける事になってしまう。

患者さんからすれば初めて会った、家族、友人、恋人に…
君は記憶をなくしてるのだから、早く思い出せ。
みたいな風にとらえちゃうだろうね。』

「そう、ですか。」

『僕も記憶を無くした事はないから、記憶喪失になった人がどんな接し方をしてほしいかわからない…
ただ、周囲の接し方には大きくわけて2つある。どちらを望んでかはその患者さんにしかわからないけどね…』

『1つは、以前の…記憶を喪う前と変わらずに接する事…
さっきも言ったが患者さんにはプレッシャーになるかもしれないね。だけど、奥底で眠っている記憶を呼び起こせるかもしれない。』

「……」

『もう1つは…
新しい関係を築いていく事。
周囲の人間は辛いかもしれないが、プレッシャーは少ないと思う。記憶喪失ってだけで追い込まれている訳だしね。』

「………はい。」


記憶を喪うってどんな気分なんだろう。
もし私が記憶を喪ったら、きっと黒子は泣くだろうな…
泣かせたくないな。

あ、記憶を喪ったら黒子が誰かもわからなくなるのか。

黒子が私を…

忘れる…か。
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