リハビリ
□Again
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「私は、蜂になりたいです♪」
「…え、蜂?」
初春さんの唐突な言葉に、一瞬呆けて聞き直した。
隣で、佐天さんがクスクス笑ってる。
「はい♪あっちの花からこっちの花へ…蜜を求めて旅をするんです♪………って、佐天さんまた笑ってますね…」
うっとりと。
もしもの話しを、まるで夢を語るみたいに語っていた初春さんは、
むぅ。と佐天さんを軽く睨む。
“また”と言うからにはどうやら、このやりとりも学校でしたみたい。
『だって蜂って…プププ♪やっぱり初春って変わってるよね〜☆』
睨まれても、かまう事なくケラケラと笑う佐天さん。
「確かに、蜂はちょっとねぇ♪」
つられて、クスクスと笑みが溢れる。
「ぇえ〜?可愛いじゃないですかぁ。」
唇を尖らせて拗ねてる初春さん。
『初春は蛇とか蜂とか、普通女の子が嫌がるもの好きだよね〜☆』
「む、普通の定義なんて人それぞれですよ〜」
「まぁそうよね♪それで佐天さんは?」
痴話喧嘩が始まりそうなので、方向転換。
まぁ、この二人が痴話喧嘩を始めても、数分で。それもいつの間にか元に戻ってるんだけど。
『私はやっぱり人間ですね〜♪でも、今度は男になってみたいです☆』
「へぇ、なんで?」
『髪とか、洋服とか、あんま気にしなくて良さそうだし、なんか色々楽そうじゃないですか♪』
「あ〜、確かに。大変そうだと思う事もあるけど、絶対女の子の方が大変だよね〜♪」
『ですよね☆まぁ、可愛い洋服着たり、美味しいケーキ食べたり。初春のスカート捲ったり。
女で良かった、って思う事はいっぱいありますけどね♪』
「な!?女の子同士でも捲らないですよ、普通は!!」
黙って私達の会話を聞いていた初春さんが、間髪入れずにツッコミを入れる。
『普通の定義なんて人それぞれだよ、初春☆』
「ぁう、…ぅ」
しかし先程、自分が放った言葉で返されて。
どうやら瞬時に反撃の術が見つからなかったらしい。
「み、御坂さんは決まりましたか!?」
やや焦り口調で問われた。
「…ん〜、そうねぇ…」
二人の話しは、参考になったと言えば参考になったが。
全くなってないと言えば、全くなってない。
「やっぱり…人間、かなぁ。」
深く考えるのを止めて、単純に。
思うままを述べる事にした。
『ですよね〜☆』
「ぇえ!?てっきり蛙かと…」
『…あのね、初春?御坂さんが好きなのはゲコ太であって、蛙じゃないよ?』
「あ、そうか。…でも蛙も可愛いですよね?」
『う…ん…』
テンポの良い会話に、自然と笑みが溢れる。
二人はいつも、本当に自然体だなぁ。
なんて思った時に、脳裏に浮かんだ数日前の夜の事。
「……でも。」
「『???』」
目を閉じて、あの日の情景を思い返す。
「もしも生まれ変わるなら、少し…」
「……」
『……』
「鈍感な人間になりたい、かな。」
「……鈍感…ですか?」
『鋭い人間、とかで無く…ですか?』
「うん。」
『なんでまた?』
「ん〜…だってさ。鈍感だったら…」
怪我した、なんて気付かないで済む。
気付かないで済めば、笑顔の裏側に気付かないで済む。
彼女が何も無い所でつんのめって、あはは、転んじゃいましたの〜
なんて、まるでふざけてわざと転びました。
みたいな言葉を信じて、なにやってんの馬鹿じゃない。なんて笑ってやれる。
言い訳である事なんて気付かずに、面白おかしい彼女の話しに笑えるし。
きっと。
彼女が笑えば。
笑ってる理由など考えもせずに。
あぁ、笑ってる。
だなんて思えるんだろう。
そうだったら、どんなに楽か。
「鈍感だったら、あの馬鹿と居るのが少し楽になるでしょう?」
クスリと笑って、もしもの話しに華を咲かせる。
「白井さん、御坂さんの前では不器用ですからねぇ。」
私の、言葉に含んだ意味を汲み取って、初春さんが笑う。
「本当。不器用すぎんのよ。
隠すならきちんと隠せっての…。
気付いてる事。
に気付いてないんだから…。こっちが気を遣うっての。」
「あはは、大変そうですね…」
『え、…と。あの馬鹿っていうのが白井さんの事っていうのは解るけど…。その………つまりどういう事?』
頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、佐天さんが初春さんの肩をつつく。
「んと、つまりですね。白井さんは怪我とか隠しても御坂さんにはバレバレで…」
初春さんが佐天さんに説明してる。
その間私は、やっぱりゲコ太が好きなのバレてんだなぁ…なんて考えてた。