S以前
□雨
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せっかくの土曜日なのに外は生憎の雨でみちるはうんざりしていた。
「雨…今日は止まないかしら…」
雨にはいい思い出がない。
初めて大好きな両親と遊園地に行こうとしたとき雨が降って行けなかった。パンフレットを持ってあれに乗ってこれに乗って…と何するか決めていたのに…しかも両親は仕方がないと言って海外にお仕事をしに行ってしまった。
戦士として覚醒したときも雨の日だった…初めての戦いでできたあざの痛み、覚醒してしまったことに対する後悔で涙が止まらなかった…
「雨なんてキライ…」
いつもだったら雨でも普通に規則正しい生活をおくっているのに今日はどうしてもやる気が起きなくてまたベッドに潜りこんで眠りについた。
ーみちる、、、
自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「みちる…!」
ハッっとなって目を覚ましたら目の前には見慣れた顔。
「はるか…?」
「大丈夫?みちる。うなされてたよ。熱も少しあるみたいだし」
「はるか…どうして私の部屋に?」
「なんとなく会いたくなって来てみたんだ。でも携帯に電話しても繋がらないし、だからマンションまで来たんだ。チャイムを押しても出なかったから悪いとは思ったけどこの前もらった合い鍵で勝手に入らしてもらったよ」
はるかの優しい微笑みにホッとする
「そう。ごめんなさいね、 私ったらつい寝ちゃって…」
「いや、熱があるんだ。ゆっくり休んで」
はるかはみちるのおでこに手をあてる。
ドキッとして、みちるは話題を探した。
「今、何時なの?」
「昼の12時だよ。お腹空いてる?」
「うーん。ちょっとだけ」
「なんか簡単に作ってやるよ」
はるかがキッチンに向かおうみちるに背を向けると、急に服の袖を捕まれた。
「行かないで。一人にしないで」
不安そうな声で、みちるはつぶやく。
「どこにも行かないよ。ずっと側にいる」
はるかは振り返り、みちるを抱きしめた。
抱き寄せられ、はるかの温もりを感じる。
「私ね、雨が嫌いなのよ。雨にはいい思い出がないの…」
そう、とはるかは呟いてみちるの髪を撫でた。
「僕は雨が好きだよ」
「どうして?」
「だって、雨はこの世界の汚れを洗い流してくれるじゃないか。嫌なことや辛いことがあってよ、雨にあたると全部流れて行くような気持ちになるんだ。」
幼い子にするように、髪を撫でる。
「それにみちる、雨にいい思い出はないって言ったけど今日できたよね」
「今日?」
「僕がここに来たこと。嬉しいだろ?」
そう言ってはるかはニカッと笑ってみせる。
みちるは呆気にとられたようにクスクス笑った 。
「あなたってほんと自惚れやさんよね?」
「やっと笑ったね。やっぱり笑ってる顔がキュートだよ」
パチっとウインクしてみせる。
「さっ、熱があるんだからゆっくり休んで。お昼作ってくるよ。 味の保証はしないけどね」
「ありがとう。冷蔵庫にあるもの自由に使ってね」
「了解」
はるかが寝室を出る。
外は雨が降り続いている。でももう不安な気持ちは無かった。
〇追記〇
2011/2/28 修正
2017/10/16 修正
2019/5/8 修正 加筆