S

□みちる独占権
1ページ/4ページ



『ありがとうございました』

リハーサルが終わり、スタッフや共演者に挨拶をした。

今回は若手指揮者と天才バイオリニストとのコラボをコンセプトとしたオーケストラとの共演。
敵の戦闘能力が増してきており、日に日に戦いの頻度も増えてきている中で、みちるはこの依頼にかなりの時間と労力をかけていた。








「みちるさん、お疲れ様でした。」

控え室に、今回の重要人物である若手指揮者の遠藤祐一が入ってきた。

「まぁ!お疲れ様ですわ。とても刺激的でした」

みちるは立ち上がり、遠藤に手を差し出す。

「こちらこそ刺激的でした。実は5年前に一度あなたのコンサートにお伺いしたことがあるんです。以前より、一層上達されていて感動しました」
「5年前?嫌だわ。小学生の時じゃありませんか。お恥ずかしい限りです」
「いえいえ、美しさにも磨きがかかって、リハーサル中もドキドキしましたよ。リズムが狂ってしまうかと思いました」

少しコミカルな動きで冗談を言う遠藤にみちるは笑う。

「まぁ!ご冗談がお上手なんですね」
「冗談なんかじゃありませんよ!あんな素敵な演奏、一体誰を想像して奏でているのか。思わず嫉妬してしまいました」
「クスクス、一体どういうことかしら」
「いえ、ただあなたをあんな風にさせる殿方に興味があって」

遠藤は、目を細めて笑う。
女たらしなところは、はるかと少し似ている。

「恋人がいるように見えまして?」

みちるは鏡の方に向き直り、バイオリンの手入れを始める

「そうですね…」

遠藤はみちるの後ろに近寄る。

「あなたは女性ですが、命をかけてでも支えたい、守りたいと思うような相手がいるんじゃないでしょうか」

なかなか鋭い意見だ。練習の時から感じていたが、この男は演奏者の意志や主張を汲み取るのが上手い。ソリストやコンマスだけでなく、オケ一人一人の音を聴き、うまくまとめていた。
音楽的センスだけでなく、人とのコミュニケーションをとるのも上手かった。
若手の指揮者はそれだけで、下に見られ、挑発されることが多い。しかし、彼は持ち前のコミュニケーション能力と、目上の人を尊重する態度、人当たりの良さで上手くまとめていた。
その点は、同じ若手のバイオリニストであるみちるには欠けているものだった。
良いものをみんなで作ろうとする彼に対し、みちるはあまり口を出さず指揮者に従うと言わんばかりに合わせてきた。
その結果、みちる自身も何か違うと感じることが多かった。実際彼女を評する者たちも、人嫌いだの、ソロの方が魅力的だの好き好きに書いてくる。結局彼女はソロコンサートやアンサンブルに留めることが多かった。

なので今回のコンチェルトの話がかかった時、みちるは一瞬躊躇った。
しかし彼女が依頼を受け入れた一番の理由はやはり遠藤だった。なぜこの若者は、年配の奏者も多くいるオケをうまくまとめられるのか、学べることを学びたかった。

久しぶりにはるか以外の男性と会話をしたが、こんなに盛り上がったことは過去にもあっただろうか。
私たちは時間を忘れて会話を楽しんだ。

気付くと時間は夜の18時を指していた。
はるかが駐車場に迎えに来てくれるのは17時の予定だった。
みちるは慌てて支度をする。

「では遠藤さん、楽しい時間をありがとうございました。本番もよろしくお願いします」
「いえいえ。あなたとの会話は刺激的です。今度はお茶でもいかがですか」
「まぁ、是非お願いしますわ」

みちるは深々と頭を下げると、慌てて駐車場へと向かった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ