セクゾなティーチャー

□社会人なので
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今年度、私は中学二年生の担任となった。化学分野の実験が多い学年でもあるため、理科教師としては腕がなるし、どうやって授業を進めていこうか考えるのが楽しい部分でもあるため、職員室の自分の席で熱心に教科書に目を通している。始業式を明日に控えている中、授業以外にもやることは盛りだくさんなため、残業が気がかりである











「無名せんせ、今年クラス隣なんスね」


『あ、そうなの?菊池くん4組?』


「いや、2組っす」





いつものポーカーフェイスに教師と思えない髪色をしている彼は一個下の後輩、菊池風磨くん。一見やんちゃなように見えるが、実は物知りで知的な社会の教師だ





『じゃぁ菊池くんのクラスにも私は入ることになるんだね』


「そっすね、隣から無名さんのこわ〜い説教声が聞こえてくるのか〜」


『あー!またそうやってからかう!』




菊池くんは私のことをよーくいじる。それはもう周りの先生達にお笑いコンビと言われるほど。ちなみに去年、


無名先生は理科の先生なのに虫が大嫌い。だから虫を近付けて慣れさせてあげるべき


と、生徒に風潮して一週間ほど虫を近付けてくる生徒から逃げ回ったのは他でもない、菊池くんの仕業だ。今年はどんなイタズラをされるのか…今から頭を悩ませるところだ


それでもそんな彼を信頼してるのは、一応先輩である私の仕事を手伝ってくれたり、親しげに話しに来てくれたりするためだと感じている





『ま、今年は菊池くんが同じ学年だから、いっぱい働いてもらお』


「先輩、残業、がんばってくださいね、応援してます、心の中で」




再びお互いで冗談を言い合うと、あはは、と笑いのある明るい空間が出来上がった


















「菊池、久しぶり」


「おぅ」



























…ほい?














いや、えぇええ、え?え?
えぇぇぇええええ!?









何故に菊池くんとあの男が親しげに話しているぅうううう!?












淡々としているが、いかにも以前から深い仲でしたというような口ぶりで話す2人を見てあんぐりした口が塞がらない。菊池くんはずっとこの学校にいた私の一個下の後輩だし、あの男は私と同期で去年まで違う学校にいたんだぞ?なのに何だこの距離感は



よっぽどひどい顔で二人を見ていたのか、話の途中で菊池くんがブフッと吹き出し、私の顔うける、と言った。それにつられて奴も私へと視線を移し、びっくりしてるだけだろ、と言って菊池くんの肩をポンっと叩いた。次第に自分の顔の醜態を理解し、耳が熱くなっていくのを感じた






「俺と菊池、中学と高校が一緒なんだよ」


「いや、そんな記憶は…」


「おい、一緒だろー!」














まじですか



あぁ、ま じ で す か



そうなんですねだからそんなボケとツッコミの連携がうまく言ってるんですね、という言葉は一応飲み込んでおいた。もうとりあえず、菊池くんが奴に私の変なことを言わなければ、私と奴がただの”先生”という関係でいられれば何でもいいやという思考がピピッと回った




『そ、そうなんですね〜…仲がよろしいようで…そ、それじゃぁわ、私はちょっと理科室に用事があるからー!』







変人と思われても仕方ないだろう振る舞いをして何とか奴との引き続きの接触を逃れた私。これ、まだ新学期始まったばっかだよね、1年、いやもっと、このまま仕事以外で接触しずにいけるのか?と不安に駆られながら用も無い理科室へと足は素早く進んでいく。後ろから教頭の声で、無名先生〜いる〜?と聞こえた気がするがとりあえず無視だ










『っはぁ〜、別にそんなに避ける必要もないんだけどさ〜…』




理科室に入りドアを閉めるなり、そのドアにもたれかかってため息をついてしまった。自分で口に出した通り、そこまで避けなくてはいけないような理由はあるようでないんだけれど…









ガラッ



「無名せんせー!?」


『ぎゃぁあっ!』





もたれかかっていたドアが突如開き、真後ろから教頭のよく通り過ぎる声が聞こえたものだから、恐竜のような奇声を発してしまった。私の奇声に教頭が少し驚き、おぉ、恐竜かと思ったよなんて私と意思疎通したかのようなことを言うものだから、少し眉をひそめた






『す、すみません、何でしたか…?』


「いや、実は理科担当として、中島先生に理科室の使い方とか設備について教えてもらいたくてね」


『え?』







中島くん?え?何か教頭先生の後ろに張本人いるんですが。困るよー困るよー目あったけどそらしちゃうとかいう中学生のようかことをしてしまったじゃないか。じゃ、あとは頼むね〜と言って自身は颯爽と職員室のデスクワークへとお戻りになった教頭を憎んだのは今日でまだ二度目くらいだ







『ええっと…先生は、数学…でしたよね?』


「そう。でも学校全体のことはちゃんと把握しておきたいんですよね」





何だ何だ、意識高めじゃないか…薬品の置いてある場所や教室のつくりまで真剣な表情で見ている奴






「これは何を育ててるの?」


『あ、それはダリアの花っす…』


「へぇ、花好きなんだね、先生」


『ま、まぁ…』




この人は、相手の目をまっすぐ見て話してくる人だ、奴の強い目力に、私は目をパッとそらす。これで2回目






















「先生?」


『え?ひゃっ!?』










先生?と、突然近くで、奴の低い、どこか色気のあるような声が聞こえたと思い、目線を元に戻すと自分の想像を超えた近さ、むしろ私の顔の目の前に奴の顔があり、驚きの声をあげてしまった






『ちょ、近いですけど…!』


「あ、すいません、先生全然目を合わせてくれないな〜と思って見てたら」


『や、それならそれでも近すぎ!』





自分からささっと離れると、奴は少し不思議そうな顔をしたが、そんなの構ってられない、なんなのこの女慣れしたような感じ、やっぱりいきなり処女?とか聞くような女たらしな奴なのか。私のことなんて全く覚えてないだろうけど






「あ、先生、ちょっと照れた?」


『は、はぁ!?』






ニコッお得意であろうスマイルを浮かべて私を試すような発言をするものだから、イラっとした。なんなの、何がしたかったのこの人、照れさせたかったからわざとやったのか、それをすれば落ちるとでも思ったのか







「ジョーダンジョーダン、そんな怒らないでよ!同期なんだし、敬語使わなくていいっすよ」






ジョーダンジョーダン、このフレーズ、あの時にも言われた。変わってない、相変わらず人を馬鹿にしたような発言に腹が立った。あの時は周りに人がいたこともあって言い返せなかったけれど、今なら理科室に二人。これは物申した方がいいなと私は思う










『ねぇ、』


「え?」


『そういうことすれば女なんてみんな落ちると思ってません?』




突然の私の発言に、奴は目を丸くして言葉を失っている








『ほぼ初対面の人間に対して二回も失礼なことして…何様のつもりだー!』






































やば、勢いがあまりすぎてしまった…奴のポカーンとした顔が、私があまりにも大げさなことをしてしまったことを物語っている






















『あ、えーと…すみませーんちょっと言い過ぎましたぁあ!忘れてください!私もちょっと反省して明日からは普通の態度でお仕事したいと思います!社会人なので…!』









ほぼ、言い捨てだ。言い捨てて、まだポカンとしている奴を置いて理科室を飛び出してきた。同時に、スッキリした、というよりは、あぁ、やってしまった、という後悔の念が押し寄せてきた。なんということなんだ、これから同じ学校、今年は同じ学年で一緒に仕事をしてかなきゃいけないというのに…





頭を悩ませ自らつくった明日からの苦境を悔いた


それでも私は社会人、どんなことがあっても、どんな相手でも、何もなかったかのように、接することが大事よね


と、自分に言い聞かせながら、重たい足取りで職員室へと戻った



























To be continued...
 

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