セクゾなティーチャー

□アジの誘惑
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「「さぁ、釣るぞー!!」」



満面の笑みだ両手を上に挙げて、海へ走って言ったのはマリちゃんだ。その後に続いて聡ちゃんも走り出す。二人の手には立派な釣竿が握られていた






「『海きれー!!』」







一方、釣りよりも海の綺麗さに感動したのは私と佐藤くん。夏以外に海に来ることなんてないため、すごく新鮮なかんじだ





「よっしゃー釣って釣って釣りまくるぞ野郎共」


「今日の飯は魚パーティーだぜ」


「「『…』」」







キラーン、という効果音が聞こえて来そうな装いで車から降りて来た菊池くんと奴。サングラスを身につけ帽子を被り、もうやる気満々である






「あれ?どーしたんすか無名さん、そんなにこっちをじっと見て」


「魚よりも前に無名さんが釣れちゃったかな」






そう言って笑うアホ二人。よし、無視しておこう、自分たちの世界に入ってるみたいだから



そして各々の釣りがスタートする










「あぁっ!何かひっかかった!」




「もう!?」





初めに反応したのは聡ちゃんだ


よっぽと竿が引かれるのか、体を前のめりにさせがんばって引っ張っている。それを直ちに助けに行く佐藤くん


後ろからは奴のまっちゃんがんばれー!という応援の声が響いていた










ザパッ!











「…タイヤ…」




「『流石聡ちゃん』」






私とマリちゃんがハモった瞬間である






一方私はというと、全くと言っていいほど釣れていなかった。釣れていないというか、タイヤすら引っかかりもしない




釣りはもともとやったことないし、初心者だが、横でよっしゃースズキ釣れたーと喜んでいる菊池くんや佐藤くん、奴を見ていると自分のルアーには何か魚が寄ってこないいわくでもついてるんじゃないかと思うくらいだ







『…場所が悪いのかな?』






このままばかばか釣っているマリちゃんの横にいても自分の方には寄ってこないんだな、きっと




よし、こうなったら、みんなと少し離れた場所で釣ってみよう








『ちょっと私場所変えてみ…』






「ほら見ろ!やっぱり俺のスズキのがお前のよりでけーじゃん!3ミリくらい」


「風磨くんいい加減認めて!僕の方が大きいって!」


「いやマリのよりは俺のスズキの方がでけーべ」


「いやその健人先生のより俺のスズキがでかい」


「いやいや勝利のより、俺のタイヤが…」















スズキの大きさ比べ対決(口論)に夢中でした、はい


誰一人として私の声に気付くものはいません、はい



しかも聡ちゃん、あなただけタイヤで張り合ってるけどそれだめだから






まぁいいや、彼らはまだまだ純粋な男の子だったってことで、置いておこう。ちょっとくらいあっちの方で釣っててもいいよね!
















































『あぁっ釣れなぁーい!!』









釣竿を手放し、地面に仰向けにゴロン、となって降参のポーズをかます私



結局彼らから離れて釣ってみたが、状況は変わらず釣竿はピクリともしない






























『はぁー、もう、一匹も釣れずに終わっちゃうのかなぁ…』



「教えるよ?」


『っきゃぁ!?』








突然頭上からした声に驚いた体が飛び跳ねた


仰向けになっていた体を勢いよく起こし、後ろを振り返るとそこにはニッコリと笑って釣竿を持っている奴の姿があった










『えっ、な、何で…』


「無名さんの姿がないなーって。探した」


『あ、う、うん…』


「何でこっちに来たの?」


『いや、その、ア、アジ!アジが釣りたくて!』





我ながら苦し紛れに適当に言った言葉が口走ったなと思う。奴はしばらくポカーン、としていたが、三秒後に口を開いた








「…春は、アジは一番釣れない季節だね…」


『…』









うんうん、ですよね。としか言いようがないな。だって苦し紛れに言ったことだもの








『一匹も釣れなくて、さ!みんなが釣れてるスズキも!』


「…なら、アジ、釣る?」


『え?』


「俺らはスズキのデカさ対決をしてるけど、アジがもしこの季節に釣れたらそれが一番すげーって!」


『で、でも今季節じゃないって…』


「やってみようぜ!」






何故か乗り気になった奴は私の横に腰掛けると、釣竿を海に沈めた。どうやら本気らしい








「無名さんのルアー、こうやって動かしてみて、そうしたら魚が寄ってくると思うよ」




ちょいちょいーっと器用に釣竿を動かす奴。ちょっと不服だが、奴の言われた通りに動かす






「こうすると、魚が餌が来たと思って食いついてくるんだよ」


『そうなん……っ、なんか、重いかも!』


「おっ!?きた!?」


『ちょ、やばいっ!引っ張られそ!』


「よし、一緒に引こうぜ!」


『(っ!?)』






ちょ、ちょちょちょっとまったぁぁあ!手伝ってくれるのはいいけど、体密着させすぎ…!



私の後ろから腕を回して釣竿を引っ張るのを手伝ってくれているため、後ろから抱きしめられている状態である





「せーのーでで引くよっ」


『っ、う、うん』


「無名さん?」


『な、何も!』






耳元に息がかかるくらい近くで、囁くような声で言われて反応しない人なんていない



だがだめだ、気をしっかりしろ(名前)、相手は奴だ。数々の女をこうやって落としてきた奴だ!









「『せーのっ!』」






ザパッ!と海から何かがあがった音と同時に、ズサァッと反動で地面に倒れこむ音が響いた











「無名さん、大丈夫?怪我してない?」


『いったー……くない、?』





あれ?確かに地面に倒れ込んだはずなのに、と思い、パッと顔を上げると、目の前に奴の顔があり、体は奴に抱きしめられていた




私が怪我しないように守ってくれたんだ






『っ…!』






顔が、近い


体が触れ合って熱い


奴の綺麗な瞳に、何だが吸い込まれそうで目が離せない




何で私の心臓、バクバクいってるんだ、奴なのに








「、ごめん!」






そんな私の様子の変化を察したかのように奴は私を抱きしめている手を離した





「また、失礼なことするなって、言われちゃうかな、」


『ち、違う!』


「え、?」






咄嗟に声が出てしまった


奴は驚いたような顔をしている







『その…い、今のは私を守ろうとしてくれたんだ…よね、だから、そんなこと…言わない』


「…!」


『むしろ、その、ありが…とう』





そう言ったのは自分だけれど、恥ずかしさからパッと奴から目を逸らした
































「…反則、」










奴は小さな声でそう言った






『は、反…則…?』


「な、何でも!それより釣れた魚!」


『あ、う、うん』







しばらく放置されていた魚の方へ行くと、何やら小さいものがピチピチしていた








「『ア、アジ!!』」







本当に小さいサイズだが、これはアジだ。まじでアジが釣れるなんて!!






「すごいじゃん!まじで釣れたじゃん!」


『やった!まさか釣れるなんて!』


「よっしゃ!勝利達にも見せに行こう!」


『う、うん!』




すごく、私よりも嬉しそうな顔をして奴の姿はキラキラと輝いていた







私の中の、関わりたくない奴のイメージとは逆の奴を見た気がする















「無名さん、ありがとな!俺楽しかったわ!」

















そんなに、悪い奴じゃない…の、かも、しれない?



























To be continued...
 

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