セクゾなティーチャー
□花びらのような感情
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トロイなぁ、この人
素直な第一印象はこれだった
これは今から二年前
俺がこの学校に来たばっかりの話だ
『っあぁ〜!これ今日までだったの〜!?教頭先生お許しをー!』
「無名先生ぇええお許しはないからねぇえ!さぁあと30分で仕上げるんだ!」
『ひぃいいい』
1つ先輩の無名さん
彼女は今年二年目の教員、俺は一年目、つまり初任者だ
社会人になったばっかの俺からしたら、無名さんは唯一年の近い先輩だった
そんな無名さんの日々の姿を見ていて、素直に出た彼女の第一印象があれだったわけだ
『っあと22分だぁ〜〜』
彼女はマイペースだ
それはいい意味でおっとりしていて、悪い意味でとろい、になってしまうのだが、俺も来年になって任される仕事量が増えたらこうなるのか、と考えるときっとそれは違うと思う
俺はどちらかというとテキパキタイプ
何でもそれなりにこなし、計画性をもって課題もクリアしていくさ
「…無名先生、それ、手伝いましょうか?」
『え、き、菊池くん…!そんな神のようなことを言ってくれるの…!?ありがとう!頼んだ!』
「いや、全部とは言ってないっす」
俺が救いの手を差し伸べるとキラキラした子犬のような目ですんなりと受け入れた
そしてどういうことか全て委ねられるような展開になりかけたが、回避
この、何故か全く嫌味ったらしくない遠慮のなさに、この時無名さんの見た目とのギャップを感じ心が疼いたのを覚えてる
彼女に一度引きずり込まれたら、抜けられない、沼のような、なんだか
わからないけれど
でもトロイのに、
「名無しさんちゃん、どうしよう」
『大丈夫。聡ちゃんは何も悪くないよ、絶対解決するから、安心して』
こんなに強さをもってるものだから、ため息が出たんだ
俺が彼女に感じた第一印象は、あながち間違いではない
しかし、それが全てでもない
『きーくーちーくんっ』
「ご機嫌ですね」
『お昼行かない?』
テスト週間
それは俺ら教員が唯一お昼を食べに行ける期間
「いいっすね、何食べます?」
『んー、まぁ私はステーキの気分だけど、菊池くんの食べたいものに合わせるよ!』
「一応聞きますけどそれ、後輩の俺に拒否権あります?」
そう言うと無名さんはへへへ、と少し意地悪に笑った
俺を振り回すなんて、強者か
しかもステーキって、年頃の女の子が一番に出てくるか?
まぁそれでも、何だか無名さんのその意地悪染みた笑顔がどことなくくすぐったくて、彼女の言う通りにしてしまったのだが
何故か車を出すのも俺だったけれど
『おいし〜〜〜〜!』
「…ほんっと幸せそうに食べますね…」
『だっておいしくない!?この牛さん…!』
「めっちゃうまいっすよ」
『でしょ!生きてて良かった』
突然生に感謝を捧げ出した無名はやっぱりちょっと変な気がする
なんだか妹を見ているような、俺よりも幼い何かを見てるようなそんな感覚
自分が後輩だってことを今にも忘れてしまいそうだ
「なんつーか、見てて飽きないですね」
『え?どういう意味?』
「可愛いって意味ですよ」
ちょっとカッコつけた、とでも言おうか
不敵にフッと鼻を鳴らして、先輩を上から褒めてみた
無名さんは少し目を丸くして、ぽっと頬を染めたものだから、やっぱり俺が上で、この子が妹のような
『あ、私、今の菊池くんの表情好きなの』
ドキッ
え、
何だよ
何で突然そんな大人な表情でそんなこと言うんだよ
不覚にも胸が一つ鳴った
『菊池くん、どうしたの?何か顔赤くない?』
「え?無名さんの眼球が写輪眼でも開眼したんじゃないすか?」
『えぇっ私に第三の眼が…ってそんなわけあるかぁあ!』
ノリツッコミを全力でやる無名さんに、思わず素で笑いが出た
どうやら、この人はただの“妹”ではなかったらしい
そして、俺が“上”というわけでもないようだ
だってもしそうならば、この胸の高鳴りは不自然だから
:
「無名先生!この書類今日までだよぉお!」
『げっ!い、今やりますぅう!』
トロイなぁ、この人
相変わらず教頭に締切を迫られ焦っている無名さんを横目に、相変わらずの印象の俺
ただ、トロイ無名さんと、俺を動かす無名さん
俺がそんな動きのある彼女の沼にハマっているのは認めたくないが事実なのかもしれない
振り回し、振り回される
そんな花びらのようにひらひらとした、何とも言えない感情に翻弄されている
横にいる無名さんは、期限間近の書類に翻弄されている
そんな姿が可笑しくて、少し愛おしくて、俺の口元には笑が溢れた
よし、今日も仕事、頑張ろう
To be continued...