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□DV?違う、これは愛だ
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【DV?違う、これは愛だ】
小説:外道丸蓮子様







クイックが任務から帰還した。
別段難しい任務ではない筈だったが、クイックはぶら下がったままの左腕を押さえたまま、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
おざなりな報告だけしてさっさとラボへと向かおうとするクイックを、メタルはその腕を掴んで引き止めた。
鬱陶しそうに眉根を顰めたクイックに、メタルは低く告げる。
「……このザマは何だ、クイック」
「べ、別に…ちょっと油断してジョイントが外れちまっただけじゃねーか!そんなに目くじら立てなくても……」
「馬鹿者!!」
メタルの怒声に、クイックはびくりと身を竦ませる。
「いくら貴様であろうと任務の時は常に警戒を怠るなといつも言っていただろうが!!挙句肩を外して帰還とは無様極まりない。これが我らワイリーナンバーズ最強だというのか。嘆かわしいな」
「そ、そこまで言う事無ぇだろ!?任務はちゃんと達成したんだからいいじゃねーか!」
「例え任務を達成しようと、五体満足で帰還できなければ100%達成したとは言い難いな。むしろ失敗もいいところだ。俺たちが負傷するという事は、博士の手を煩わせる事になるのだからな。博士の手を煩わせずに任務を達成して初めて『任務を達成した』と言えるのだ。分かったか?」
「へいへい。肝に銘じてますよオニイサマ」
メタルの説教に、クイックは煩わしそうに手を振りながらやる気の無い返事を返す。
クイックのその様子を見つめ、メタルはやれやれと肩を竦めた。
「……どうやら、言ったところで分からないようだな」
「何がだよ」
「……ならば仕方が無い、か」
「だから何が……っ!?」
不意に外れたままの左腕を掴まれ、クイックは思わず目を見開いた。
「な、何するんだ、メタル!?」
「この方法はあまり使いたくは無かったがな…博士の手を煩わせるのもあまり良くない。だから今、お前の左肩を接続してやる」
「はぁ!?そんな事、出来るわけが……」
「コツさえ掴めば誰でも出来る事だ。ただ少し、荒っぽいだけでな」
メタルはそう言うと、クイックの腕をぐり、と捻った。
途端、まるで電気ショックを喰らったかのような衝撃がクイックの全身を伝わる。
「…!?っぐああああああああっ!!??」
その、あまりの激しい痛みに、クイックはあらん限りの声で叫んだ。
「何しやがる、メタル……っぐ、痛ぇ、離せ、この……っ!!」
「暴れるな。こうやって痛覚センサを刺激してやる事でお前の神経プログラムをより繋ぎやすくしているだけだ。暴れると余計痛むだけだぞ?なに……じっとしていればすぐに終わる」
「ふざけっ……こんなんだったら、博士に直してもらった方が……っ!!」
「さっきも言っただろう?博士は今忙しいんだ。一々このくらいのエラーなどに構っていられると思うか?分かったら大人しくしていろ、いいな?」
「冗談じゃ……っ痛、痛い、もう離せ……!!」
「お前の腕の神経回路が完全に繋がれたら離してやる。だからそれまでは我慢しろ」
言いながら、尚もメタルはクイックの腕をより強く捻る。
途端、クイックの口からは抗いきれない絶叫が奔った。
「いっでえええええええ!!…っっ離せ、離せっ……!!」
「だから暴れるなと言っているだろう?それとも余計痛い思いをしたいのか?それならそのまま暴れてくれても俺は別に構わないが」
「……っち、きしょ……!!」
痛みに全身を震わせたまま、クイックは歯を食い縛った。
痛くて痛くて、今にも暴れてメタルを振り解きたいのにそれが出来ない。
痛いのか、悔しいのか―――いつしか、クイックの視界は涙でぐにゃりと歪んでいた。
「これくらいの事で泣くな。痛みくらいの事で涙を流していてそれで戦闘用ロボットと言えるのか?もうすぐ終わる。だからもう少し我慢しろ」
「……っう……く、うぅ……!!」
歯を食い縛りながら、それでも懸命に痛みに耐えようとしているクイックの姿を確認して、メタルは最後にぐいと腕を引っ張った。
途端、新たな激痛が生まれ―――クイックは背を仰け反らせて叫び声を上げる。
「っう、うあああああっ!!」
同時に、かちり、と何かが嵌ったような音が左肩から聞こえ、びりりと軽い電気ショックのような刺激が左腕に奔った。
途端にびくりと左腕の指先が動き出し、クイックは不思議そうに左腕を見つめる。
先程までの痛みがまるで嘘のように消え、動かなかった左腕がいつものように自由自在に動かせるようになっているのが、クイックには不思議でならなかった。
「これで、完了だ。よく我慢したな、クイック」
「なんだ、これ……メタル、今何したんだ…?」
「ジョイントが外れただけなのだから、入れ直しただけだ。やり方さえ分かればお前でも出来るぞ」
「そういう…モンなのか?」
「そういうものだ」
メタルはそう言って、ふう、と小さく息を吐いた。
「まあ、本来ならこれはあくまで応急処置でしかないがな。ちゃんと嵌ってるか否かはやはり博士にメンテして貰わねばならないのだが」
「………って事はどっちみち博士の手を煩わせる事になるんじゃねーか!!何だよこんなの今やったところで意味無ぇじゃん!!」
「だが、これでお前はこのやり方を憶えただろう?次からは自分で入れられる筈だ。何せ今しっかりと機体のメモリに叩き込まれたのだからな」
「お前っ……まさか、そのつもりで……」
「だとしたら何だ?」
しらりと言い放つメタルに、
「………っっざっけんなぁぁぁああ!!」
クイックは早速自由になった左腕でストレートを飛ばした。
だが、その攻撃は読まれていたのかメタルの腕にあっさりとガードされる。
「てめっ……大人しく受けておけよこの野…」
「…全く、あまり無茶をされて帰ってこられてもこっちが迷惑だというのにな」
小さくそう呟かれた、その言葉をクイックは聞き逃さなかった。
動きを止めたクイックの左腕を掴み、そのまま引き寄せてクイックの肩を抱く。
「……メタ」
「………あまり、心配をかけるな」
聴覚センサに寄せられたその言葉に、クイックはそれ以上何も言えなくなってしまった。
メタルの胸に顔を埋め、ふて腐れたようにぼそりと呟く。
「……でも、だからと言ってもうあんな痛い目に遭うのはゴメンだ」
「ああ、それか。別に外れたジョイントを入れるだけなら一瞬で終わるが」
あっさりとそう言ってのけたメタルの言葉に、クイックは目を丸くして顔を上げた。
「………は?」
「あんな簡単に任務に肩を外して帰還するなど、無様極まりないからな。制裁の意味も込めてわざと痛みを伴うやり方を実践したのだが…クイック、その目は何だ」
「……つまり、あんな風にねちねちやる必要性は全く無かったって事か?」
「そういう事だ」
メタルの言葉に、クイックは俯いたまま肩を震わせた。
「どうした、クイッ……」
「……ざっけんなこの馬鹿メタルーーーーーー!!」
「ごふっ!?」
再度放たれた左ストレートを振り切る事が出来ず、メタルは情けない声を上げながら吹っ飛んでいった。
「メタルなんか嫌いだこのDV野郎!!鬼畜!!変態バカあああああ!!!」
床に投げ出されたメタルを尻目に、クイックは半泣き状態のままラボへと走って行った。



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