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□メンテナンス?セクハラの間違いだろ?
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【メンテナンス?セクハラの間違いだろ?】
小説:大月雅
クイックは、メタルのメンテナンスがそんなに好きではなかった。
苦手と言ってしまってもいい。
彼は、色々な意味でワイリー博士以上にクイックの機体を熟知している。
クイックの、この部位を触ればこう反応する、このコードは電子頭脳のここに繋がっていて引っ張ればこうなる……等、彼の電子頭脳にはクイックの全ての情報が叩き込まれている。
それ故に、多少迷惑なことをされることが多いのだ。
悪戯心からか、あまり人に触られたくない脚部をやけに優しく触ってきたり、わざとコードを引っ張って痛がるクイックを見て楽しそうに笑ったりする長兄は迷惑極まりない。
安心して身を任すなど出来たものではなかった。
「メタル、こういうの、なんて言うか知ってるか?」
クイックは、脚部の定期メンテナンスをしているにもかかわらず、彼の男性型にしては細い腰を撫で回しているメタルを見、皮肉げな声色で呟いた。
「さあ」
素知らぬ顔で、メタルは腰部を撫でていた。口元を覆うマスクの為、彼の表情は窺い知れない。
「"セクハラ"って言うんだとよこのド変態が」
クイックが、その力強い右脚部でメタルの機体を蹴ろうとするよりも速く、メタルの手が彼の剥き出しになった左脚部の内部コードを引っ張った。
何らかの信号が、電子頭脳に到達し、クイックの脚部はメタルに届くこと無く宙で止まった。
クイックは、舌打ちをする。
「動かねぇんだけど」
「このコードを引っ張るとな、制御反応で機体が停止するんだ、にしてもいい脚だなクイック」
「止めろクソ兄貴」
瞳を細めながら、高々と突き出された右脚を撫でるメタルを、クイックは睨みつけた。
「にしても」
「んだよ」
「酷使し過ぎだクイック。膝の衝撃吸収材がだいぶ擦り減っている。限界と言うものを考えろ」
撫でていたかと思えば、メタルはクイックの右脚を静かに降ろした。その、装甲を外すと内部をなめ回すように見、言った。
―――セクハラしたかと思えば今度は説教かよ……
クイックは大きく溜息をついた。それなりに長い付き合いであると思っているが、時々この長兄の考えることはわからない。
「お前は俺にメンテナンスされるのは嫌いか」
「……」
ふと、クイックの脚部のネジを回しながらメタルが言う。
クイックは、何も言わずに上体だけを起こし、メンテナンスをするメタルを見つめた。
「俺は、お前の機体を触るのが好きだ」
「……どういう意味で、だ」
「いろんな意味でだ」
「くそ変態野郎」
「俺は、自分の機体以上にお前の機体を知り尽くしている自負がある」
メタルの言葉に、クイックは聴覚サーチをかたむけていた。
「だから、安心して身を委ねろ」
パチン、と音を立ててメタルはその口元を隠すマスクを取った。
微笑んでいる。
少し悪戯っぽく、しかし優しげなその表情にコアを熱くしながら、クイックは視覚サーチを右手で覆った。
「あのさあ」
「なんだ」
「そういう顔やめろよな……何も言えなくなるんだよ、クソッ……!」
いつもは無表情で何を考えているか皆目検討がつかないメタルだが、時折こうして笑顔を見せることもある。
クイックは、その笑顔も苦手だった。
いや、苦手と言うよりは好き過ぎてどうしたらいいかわからなくなる……というのが本音だろう。
「どんな顔だ」
「ぅのあっ!?」
顔を覆っていた手を外すと、至近距離にメタルの顔があった。
少しでもクイックが動けば接触してしまうくらいの距離で微笑まれるのだからたまったものでは無い。
横に転がってでも逃げようするも、赤の両手に肩を押さえられ動くことすら出来はしない。
「逃げるな。お前は俺が嫌いなのか?」
「違ッ……」
「なら何故、逃げようとする?」
「それは、お前が、変なことしようとするから」
「変なこと?」
メタルは、さも意外そうに言った。
「変なこととは……例えばこのようなこととか」
「んぎゃっ……!」
急に、メタルの手がクイックの脇腹を撫でる。
それに反応したクイックの機体は、あまりのくすぐったさに大袈裟な程に跳ね上がった。
「こんなこととか」
「うぐぐ……」
今度は、クイックの首筋に噛み付くようなキスをされる。
防護スーツの下に隠れるコードを甘噛みされて、クイックは呻いた。おそらく、そこにもメタルしか知らない"何か"があるのだろう。
まるで力を吸い取られたかのような感覚に襲われ、ピリピリとした心地良い痺れがコアまで響く。
これでは、逃れたくても逃れられない。
相手の成すがままである。
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