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□馬鹿な子ほど蹂躙したい
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【馬鹿な子程蹂躙したい】
小説:鋼速呉羽様


これは……。
今だから言える"懺悔"なのかも知れない。



あの頃の俺は、造られてから未だ間もない故に"未熟"で。
未熟過ぎる故に、己の気持ちそのものですら理解出来ない……愚か過ぎる程に愚かな傀儡だった。



基本的な人格を与えられてはいた、が……それでも俺には、己と言う存在が《傀儡》であるとしか思えなかったんだ。



俺にとって、この世界の全ては創造主である"博士"の物であり……博士の望みの侭に存在するという事。
彼の望みを叶える為、彼の信じる世界を共に見詰められるという事。



……それ以外の幸福等、有り得ない。
そう……思っていたと言うのに。



《馬鹿な子程蹂躙したい》



━━━…ダアァァァン!!!!



壁に強く叩き付けられる音と共に、鈍くくぐもった声が……俺の聴覚にもハッキリと捉えられる。
煙りの中から覗くのは、俺よりも遥かに小さく弱々しい機体で、試験体として博士より造られた……俺の三番目の弟機体だ。


否、弟機体と呼んで良いものだろうか?


コイツは、あくまでも四号機が完成する迄の"繋ぎ"でしか無い。
それ故に……戦闘型としての能力等、最初から搭載されてすら居ないのだ。
その証拠に基本人格すら設定されず、何とか動く位の容量を詰められているだけの……本当に、愛玩人形の様なロボット。



エアーやバブルはとても可愛がっている様だが、限りなく歪で未熟な俺には『煩わしい』としか思えなかった……そんな存在。



「全く、貴様は…言われた事も満足に守れないのか?」



呆れ気味に発っせられる声は、己の声だと分かっていても酷く冷たい響きに感じていて。
俺の声にビクッと大きく身体を震わせる小さな身体を眺めながら、俺は吐き捨てる様に言い放っていた。



「俺は何度言ったと思っている?
……『此処から出るな』と、『危ないから』と…何度も何度も言っただろう…何故、守れない?
そんなに俺の言葉は、貴様にとって守るに値しない言葉なのか?」



胸倉を掴んで、高く持ち上げると……小さな身体は軽々と持ち上がり、苦しそうに顔を歪める姿からは所々バチバチと火花が散っている。
それでも子供は『ふるふる』と、必死に首を横に振っているから。



「ならば、何故…その壁をよじ登ろうとしていた!!!!」



俺は子供を有無を言わさず、床に思い切り叩き付けていた。
鈍い音と、鉄のへしゃげる音と共に痛みの余りに悶え苦しむも、それでも悲鳴一つ上げない子供。


恐らくは、最初にこの子供の頬を張った時に『泣くな』と言った"言い付け"を守っているのだろう。
『戦闘型は軽々しく、痛みを訴えない』と言った事と、『直ぐに泣く貴様を"ナンバーズ"だとは認めない』と言った事を……コイツなりに、認めて貰いたくて必死なのは分かるが……。


それでも、俺には煩わしい子供でしか無かったから。



「ジョー、この傀儡をメンテナンス室に運んでくれ。
……用事が終わった後になるが、損傷した箇所位は俺が責任持って修理する」



深く溜息を吐きながらも、俺は子供の顔を見ずにジョーにそう告げると……最後まで振り返らずに、子供に与えられた基地(と言う名の遊び場所)を出ていった。



◇◇◇



「……メタルッ!!!!」



子供の修理も終わり、子供を部屋へと運び終わった所で……騒ぎを聞いたらしいバブルに声を掛けられた。
切羽詰まっている声は、どれだけバブルを不安がらせているのかが伝わって来るが……それでも何が言いたいのか分かっている俺には、うんざりした感情しか湧いては来ず。
足が不自由故に、陸の上での歩行は苦痛を伴う筈の弟機体を見詰めながら『…どうした?』と尋ねていた。



「どうしたもこうしたも無いよっ!
……ねえ、君。またクイックに酷い事したんでしょ?
ねえ、どうして……クイックの何がそんなに気に入らないの!!!?」

「『クイック』?
何を言っているんだ、バブル。アレは……俺達、ナンバーズでは無い。
アレは、只の"繋ぎにも満たない"愛玩人形だろうが」

「違う、あの子は……僕のたった一人の弟だ!
君の事……兄として尊敬してるけど、でも…あの子に危害を加え続けるなら話しは別っ!!!!」



普段の我関せずと言った雰囲気の、どちらかと言えば"大人しい弟機体"であるバブルが珍しく噛み付いて来る。



「もう…あの子に近付かないで!
君が、あの子…クイックに酷い事を続ける間は、僕は…君をあの子から遠ざけるからっ!」



半ば一方的に言いたい事だけを告げると、バブルは子供の部屋へと入ってしまう。
元々、四号機が完成する迄の"繋ぎ"として造られた子供だが……その子供を『欲しい』と望んだのがバブルだけに、熱の入れ方が既に違い過ぎる。



あの様子では、本来の『クイックマン』が完成する時……どれだけ荒れるか、今から気が滅入って来るのだが。



「……兄者」

「エアーか、お前も…俺に苦言をしに来たのか?」



何時の間にそこに居たのか。
エアーが、何とも言えない表情(雰囲気)を浮かべながら俺の目の前に立っていたから。
思わず苦笑しながら尋ねる俺に、エアーは『否』と数回瞬きを繰り返すと……『我はどちらにも付けられぬ』と返答して来た。



「我には、兄者の言い分も…無論、バブルの言い分も理解出来る。
……それ故に、双方に対して何も言う事が出来ぬのだ」

「そうか」

「兄者は戦闘用としての誇りと、博士に対しての敬愛が高い故に……あの子供にもつい辛く当たってしまう。
我等は戦闘用故に、戦えなければ"存在理由等有り得ぬ"が、あの子供は無くても"有り得てしまう"のだからな。
兄者が戸惑う気持ちも無理は無い、し……期限付きの触れ合いでしか無い故に、精一杯可愛がりたいと思うバブルの気持ちも理解出来るのだ」

「期限付き……そうだな」

「四号機が完成間近になる時に、あの子とも別離する事になるのだからな……余り情が湧かぬ内に、名前も付けず呼ばず…と配慮しているのも、先に傷付くバブルを見たく無いからでは無いのか?」



エアーの言葉を聞きながら、エアーもバブルもまた俺とは違い……戦闘型と言っても何処か優しく、思慮深い"思想"を持っていると思った。
恐らくはエアーもバブルも、あの子供を見ても『煩わしい』とは思わないのだろう。



俺は何も言えなかった。
エアーもまた、俺にこれ以上は何も言おうとしなかった。
只、一言だけ……。
『博士が呼んでいる』とだけ伝えてくれると、エアーは自分の持ち場へと歩いていった。



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