めいん

□君の好きなうた
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君の好きなうたを繰り返し口ずさんだ 帰り道



君の好きなうた





今日も言えなかった…。
いつも今日こそは、あなたにこの想いを伝えようと決意して、…いつも別れ際にその決意が揺らいでしまう。
そして、いつものようにあなたが好きだと言っていたうたを口ずさみながら帰っていく。

「…高耶さん」



高耶さんとは俺が上司、高耶さんが部下という関係だ。
高耶さんが新入社員として入ってきて、俺が仕事を教えていたので、自然と仲は良くなった。
退社時間も大体一緒だから、一緒に帰ることがほとんどだ。

彼は誰から見ても魅力的だった。
容姿もそうだが、彼の見せる表情や彼の言葉は人の心を掴むものがあった。
そして、そんな彼に俺はいつの間にか恋をしていた。


俺は昔から色恋沙汰に興味があまりなかったせいで、言い寄ってきた女とは体だけの関係だったりが多かった。
あまりにうるさく言い寄られる時は仕方なく恋人になったりもしたが、うまくいかない。

他人に興味を持てない人間が、人を愛することができるわけがないのだ。
そう思い、人を愛する努力もしなくなった。


そんな俺が、彼だけは自然と愛していた。

話す声のトーン、視線の先、他の誰かとかわす言葉、些細な彼の仕草が俺を惑わし、偶然触れた手の体温さえ愛しくて…温かくて…、俺の全てを受け入れてくれる気がした。
彼と出会ったことで何もかもがかわった。
そして、教えられた…届かぬつらさ、恋のせつなさ、愛する喜びを…。



彼を思うことが俺の中で生きる力になっていた。
彼のために生きたいと思えた。

この気持ちを伝えたい。
もし向き合えたなら、同じ歩幅で信じあえる道を彼と一緒に歩いて行きたい。



こんなにも高耶さんを想っている。
苦しくて愛しさ募る気持ちを抱えて…。


俺はもう一度決意した。
この気持ちを伝えにいこうと…。


今来た道を戻る。
彼に伝えるために。

どうか、奇跡が起こるなら今ここで…。



「高耶さん…」

「直江…?」



――好きです。――






fin.
 

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