黒バス

□木吉と
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「鳥って泳ぎたくなったりしないのかな?」


誰もいなくなった教室で、額縁のような窓枠から赤く染まった空を見上げて木吉先輩がぽつりと言った。


「魚は空を飛びたいと思わないのかな?」


突飛な発言に何も答えられずにいると再び発せられた言葉。いつも不思議なことを言う人だと思ってはいたけど今回のはそれらを凌駕する最大レベルだ。

やっぱり黙っていたら木吉先輩は真面目な顔で向き直りオレの手を握った。


「ずっと限られた空間にいるだけなんてさ、さみしいしつまらないだろ?」


「まるで閉じ込められてるみたいで」


「オレは早く外の世界に飛び出したかった」


最後のセリフでそれらが木吉先輩自身に向けられていたものだと気づき、ふ、と視線を下に逸らしさみしそうに笑った先輩の手を強く握り返した。
そんな顔、先輩に似合わないし、してほしくない。


「……火神?」
「木吉先輩は知っちゃってるからだよ」
「、え…?」
「外の世界のすばらしさを」


鳥や魚は知らないから平気なんだ。そう続けると、木吉先輩はたぶんオレの行為に驚き丸くしていた眸を、何か眩しいものでも見るかのように細めた。


「…知りたくはないのかな? オレは知りたいよ、もっともっと火神のこと。オレが会えなかった時間の分だけ」
「…先輩、」


その告白に、木吉先輩のさみしさの正体に気づき嬉しいなんて思ってしまうオレは薄情だろうか。
だけど仕方ない、先輩がそう思ってくれてたなんて、嬉しい他に何があるというんだ。


「これから知ればいーじゃん、もうずっと一緒の空間にいれんだから」
「……」


嬉しさを隠さず思ったままを告げると、先輩は一度面食らったように押し黙り、


「そうだな」


そうしてにこりと微笑んだ。
うん、この顔だ。
やっぱり先輩にはこの顔が一番似合う。

釣られて笑うと、火神はいい子だな、なんて言って大きな手で優しく髪をかき混ぜられた。

いい子だなんて子供扱いされてるみたいだけど木吉先輩が笑顔だからいいか。
そう思うオレは、きっと想像以上に先輩のことが好きなんだろう。



END
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