黒バス

□木吉と
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最近、木吉先輩の大きな手で頭をわしゃわしゃとかき混ぜられるのが、
すごく、好きだ。
心地好い…ってゆーか、うん、まあそれもそうなんだけど、
なんか落ち着くってゆーか安心するってゆーか……
とにかく、好きだ。
もっともっと触ってほしい、なんて思っちまう。
それどころか、今じゃ離れていくことの方がさみしい、なんて。

オレ、変、だよなあ…。





「ん? どーした火神」
「………いや、」


ついじっと見てしまった。
木吉先輩の目、ではなくて、
手、を。
先輩に言われて気がついた。


「………」
「…オレの手がどうかした?」
「………」


だけど、そうカンタンに見るのをやめられない。

だって先輩、今日はオレの頭を触ってこない。
いつもは練習中にダンク決めた時とか、ただ挨拶しただけの時とか、オレと目が合うと側に寄ってきてわしゃわしゃすんのに。
なのに、今日はまだ、一度も。
別に理由なんてねーんだろうけど、日課となりつつあったそれが行われないとなると…

気になんだろうが。


「ああ、頭撫でてほしいのか?」
「…えっ」


言ったかと思うと、先輩のあったかくて大きな手はいつものようにオレの頭をかき混ぜていた。

…通じた、のか?
いや、そもそもなんでオレは先輩に触ってほしかったのか。


「火神はいい子だな」


…って、別になんもしてねーのに先輩はやさしく笑って頭を撫でる。
その笑顔見てたら、なんで、とか、もうどうでもよくなった。
やっぱり心地好い。

オレを呼ぶ声も、触れる手も、何もかも、先輩はやさしい。
タツヤも兄キとしてすごくやさしかったけど、なんて言うか……
あったかさが違う?
いや、よくわかんねーけど、とにかくタツヤのそれとは決定的に何かが違う。


「……何が違うんだろう」
「ん?」
「…いや、なんでも」
「そっか」


また笑って、最後にぽん、と強めに叩き、そして先輩は撫でるのをやめた。

温もりが薄れる。
手が離れていく。

……さみしい。


「…………あ、」
「……火神?」


気がついたら、

ぎゅ、

と、掴んでいた。
離れていく、先輩の手を。


「…なに? どーした火神」
「……あ、いや…」


先輩はオレの行動に、わけがわらないといったような顔をする。
でもわけがわらないのはオレも同じだ。だって体が勝手に動いたんだ。


「……わり、っ!」


先輩が変な顔をするから。
先輩に変な奴って思われたくないから。
だから慌てて手を離した、
のに。

離したはずの手は、逆に強く握り返されていた。
あの、大好きな、
大きくてあったかくて、やさしい手に。


「…先輩?」
「ん」
「手……」
「ん。……いや?」


いや、

…なわけ、ない。


「火神がいやじゃなかったら、しばらくこうさせてて」


いやなわけ、ない。
だって、


「…好きだ、です」
「え、」
「……あ」


自然と口から零れた言葉。
間違えた。
先輩の手が、って言うの忘れた。


「……火神」
「……」


…けど、まあいいか。
強ち間違いじゃないし、
先輩が、嬉しそうに笑ったから。

……あ、なんかわかった、かも。
他の人とは違う、『何か』の正体。



「好きだ、です。先輩」



自分の気持ちを確かめるようにもう一度言ってみた。
やっぱり嬉しそうに先輩は笑った。
オレも嬉しくて一緒に笑ったら、またあの大好きな手が頭を撫でた。

そうか、わかっちまえばカンタンな話、つまりはこーゆーことだったのか。
そりゃ心地好いわけだ。



「実はな、オレも火神が大好きだ」


自覚してすぐの両想い。
…ああ、うれしくて死にそうだ。



END
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