黒バス

□氷室と
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タイガの初めては全部オレがもらうから

その言葉と一緒にキスを贈ったら、目の前でぺたりと床に座り込んだタイガはきょとんと首を傾げて「全部? …って?」と聞いてきた。だから、「例えば今のキスとか、その先とか」「わかった?」って念を押すと、いい子なタイガは「うん」と素直に頷いた。

知ってるよ。たぶん『その先』の意味はわかってないって。だけどタイガはオレのことを兄として慕ってるから、これで大丈夫。
タイガはオレとのこの約束を、きっと守ってくれるはず。






そう思ってた、幼い頃の自分の浅はかさを呪う。




「………え?」


今、なんて言ったの?

今まさに、幼い日の約束を果たすべく自室に招いたタイガに馬乗りになり舌を絡めた濃厚なキスを仕掛けると、耳を疑うような言葉が聞こえてきて思わず動きを止めた。


「だから、オレのファーストキスはタツヤじゃないよ」


ざんねんでした。
…って、悪戯っ子のように白い歯を見せてタイガは笑う。
聞き間違いではなかったそれに隕石が頭上に落ちてきたのではないかというほどの衝撃を受けたが、タイガのことだ、勘違いしているということもあり得ると、気を取り直して訊ねる。


「言っとくけど、親や知り合いとの挨拶程度のキスは含まれないんだよ?」
「知ってるよ」


しかしズバリと即答され、本気で一瞬目の前の光が奪われた。

まさか、タイガがそんな。


「タイガの初めては全部オレがもらうって言ったのに…」
「しょーがねえだろ、だって本当は約束する前にもう済んでたんだし。今みたいに、濃いーやつな」
「………」


それはとんだ誤算だ。

タイガは今しがたのオレとの濃厚なキスで痺れたのであろう、真っ赤な舌をぺろりと出し事も無げに言う。その姿の淫猥なこと。
…ではなくて。
一体誰がオレのかわいい大事なタイガにそんな淫らなことを仕込んだのか。まだあの時のタイガは今みたいに色気もなくて、純粋でピュアで何も知らないオレだけのエンジェルだったのに。
よりにもよって、ディープキス。

そんな怒りも沸き起こったが、まあいい。過去の過ちを責めてもタイガのくちびるは戻らない。
『その先』の初めては、約束通りオレがいただくから。


「…嫌だって喚いても仕方ないもんな、今さら詮索もしない。その代わり――」
「?」


あれから7年経った。もうオレたちは立派な大人だ。

もう一度キスをして、健気に応えるタイガの腕をシーツに縫い止めた。そして『その先』を想定したいやらしい手つきで、タイガの身体中に触れた。


「…もちろん、こっちは初めてだよね?」
「……どーかな」


つ、と、タイガの秘部に到達した指は意味を持ってそこを蠢く。
オレの問い掛けにタイガは強気な笑みを浮かべた。

――やれやれ。とんだ天の邪鬼だ。


「体に訊くよ」


オレも負けじとニヤリと笑い、そう宣言するとタイガのズボンを下着ごと一気に脱がした。


「っわ…!」


突然外気に晒されてびっくりしたのか小さなタイガは縮こまっている。かわいいソレをピンと弾くと「んぁ、」なんて甘ったるい声を上げるもんだから思わず喉が鳴った。


「…ちょ、待ってタツヤオレまだ…っ!」
「待てないよ。そんな悠長に構えてたら、またどこかの誰かにタイガの初めて奪われちゃうじゃないか」
「……ッ」


正直言って、根に持ってる。
あの頃はまだ幼かったとは言え兄キというポジションに胡座をかいてどこか油断してたんだ。
もう、そんなヘマはしない。できない。


「タイガはオレに全て任せてくれればいいから」
「…違、うんだっ…タツヤごめっ、…聞けよ!」
「愛の言葉なら聞くけど?」
「そーじゃなくて…っ」
「……?」


タイガの様子がおかしい。
うっすら涙を浮かべた瞳は潤んでいて誘われてるようにしか見えないが、当たり前だけどそうではないようで。
照れてるだけでもない、嫌がってるわけでもない。


「タイガ?」
「………う、そなんだ…」
「嘘?」
「……うそだよっ。本当は全部タツヤが初めてだ…っ」


瞼を伏せて、睫毛を震わせて。
恥ずかしさに全身を朱に染めたタイガはとてつもなく淫靡。それでいて、キレイだ。
振り絞るようにして告げられた言葉は、オレの心に深く浸透した。


「手を繋いだのも、キスも、……好きになったのも…」


タツヤは馴れてるみたいで悔しいから見栄張った。なんて。
オレの方は見ないままでタイガは続ける。

…やれやれ。とんだ小悪魔だ。
オレをそんなに翻弄してどうするの。ただでさえ7年分の思いで歯止めが効きそうにないのに…。
知らないからな。


「馴れてなんかないよ」
「…嘘だ。だってタツヤはガールフレンドたくさんいたし…」
「そうだよ、ガールフレンドだよ。ただの友達」
「……ともだち」
「そう。オレだってこんなにドキドキするの初めてだ。ごめんね、タイガ。優しくできないかもしれない」
「……タツヤなら、いい…」
「ッ、……タイガ!」


絞り出すように言われたタイガのイエスは媚薬だった。緊張と羞恥で震えるカラダが愛しすぎて、思いをぶつけるように激しく抱き締めた。
耳元で漏れたタイガの吐息に心の一番真ん中が沸騰した。初めてだよ、愛してる。

たっぷり愛してあげよう、ずっと、これからも、この先も。
そう誓うよ。



END
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