黒バス

□氷室と
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タツヤに告白された。
好きだよ。って言われて、何を今さら。オレもだよ。って答えたら、その好きじゃない。って言われてキスされた。軽いやつじゃない、深いやつ。
オレの好きはこういう好きだよ。真面目な顔のタツヤは更に続けた。タイガが答えを出すまで会わない。って。もっと先に進みたくなるから。って。勝手なやつだ、前から思ってた。オレの意思は? いっつも無視するんだ。
オレはタツヤと離れるのなんて想像できない。だけどタツヤの言う『もっと先』に進みたいわけでもない。好きが違うなんて、感情はなんて面倒くさいんだ。好きは好きだろ。いっこしかない。
考えるのは苦手だけどオレとタツヤのこれからのために脳みそを動かして天秤に架ける。
タツヤと離れる? ないない。
タツヤと未知なる道へ進む? ……。
考えるまでもなかった。
どっちが耐えられないか、答えはもう出ていた。






「タツヤ。オレもタツヤのこと好きだ」


あっさり出た結論をそのままタツヤに告げる。


「ちゃんとそーゆー意味で好きになった、だから会わないなんて言うな」


タツヤとならたぶん大丈夫だ。『もっと先』ってやつにも進める。こわくない。


「…嘘」
「嘘じゃないって」


そう、嘘じゃない。
厳密に言えばまだタツヤの言う『好き』とは違うけど、これからその『好き』になっていけばいいんだ。だってタツヤのこと好きなのは本当、会えなくなるのはイヤだ。


「オレと離れるのが嫌でそんなこと言ってるんだったら、やっぱりオレはもうタイガとは会えないな」
「…なんで」
「辛いから」


なんでもお見通しなタツヤはオレの考えなんて丸ごと気づいてた。オレの思いは受け取らず背中を向けて離れていこうとする。
本当に自分勝手だ。オレは離れたくない、好きだって伝えてるのに。


「オレ本当にタツヤのこと好きだぜ? こんなに離れたくないんだ、それってそーゆーことだろ?」
「もしそれが本当だとしてもタイガはノンケだから。すぐに気付くよ、元の世界の良さに」
「そんなことない!」


元の世界ってなに。タツヤを好きになる前の世界? タツヤと出会う前の世界?
タツヤがいない世界なんて気づきたくもない。そんな世界知らない。いらない。
どうしたら信じてくれるんだ。


「タイガがオレを嫌いになってくれたら。そしたら信じるよ」


タツヤの言葉はとても重かった。
それじゃあ意味がない。それにオレがタツヤを嫌いになるなんて絶対ありえない。言っただろ、オレはタツヤが好きなんだって。タツヤのいない世界なんて考えらんないんだって。
それでも頑固なタツヤはオレの言葉に聞く耳なんてもたない。すがったオレの手を払いまた背を向けた。
タツヤの中にはオレと離れること、その一択しか初めからなかったんだ。
なんだよそれ。オレのこと好きって、もっと先に進みたいって、じゃああれは何? タツヤこそ嘘ついてたのかよ。


「バイバイ、タイガ」
「……」
「大好きだよ」
「……」


手を振って。にっこり笑って。だけどその表情はかなしそうで。
こんなにタツヤのことわかってるのに、なのに肝心な部分は最後までわからなかった。
好きなのに離れる? そんなの理解できない。
嫌いだから離れる? うん、しっくりくる。本音はそれか。

遠ざかるタツヤの背中を見つめ、好きなのに、その気持ちは本当なのに、なぜか憎らしさが勝って嫌いに思えた。

ああ、感情は本当に難しくて、面倒くさい。



END
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