青あらし

□第5話
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「………」
「ん…、へへ。おはよう、愁」

 そう言って笑う御園はいつもの御園で。はめられた、と気付いた時にはもう時既に遅し。
 そう、俺は御園に、またしても唇を奪われてしまった。

「………」
「朝から愁とキスできるなんて最高の目覚めだよ」

 …なんてノンキに言いやがって。俺は最悪の朝だっつーの!!
 人がどれだけ心配したと思ってんだ! と掴み掛かって怒鳴り散らしてやりたい気分だったけど、ぐっと堪えた。だって御園と唇が触れてわかってしまったから。
 こいつ、相当熱ある。
 ふざけた態度はいつも通りだけど、この熱さは尋常じゃない。熱出してるのは本当だった。

「…あー、もうこんな時間かぁ…起きなきゃね」
「ちょ! 待て御園!」
「…なに?」
「なにって…!」

 あろうことか御園はこの高熱で学校に行こうとベッドからもそもそ出てきやがった。めっちゃふらふらしてんじゃん! つーか顔赤っ!

「お前寝てろよ! そんなんで学校行く気?」
「…え?」

 御園は俺が慌ててベッドに押し戻したのが不思議だったらしく、きょとんとした顔で見上げてくる。
 …つか何、まさか自分が熱出してることに気付いてないとか…? えー、どんだけだよ。

「…あのな、御園。お前今日休み。大人しく寝てろ」
「休み? …なんで?」
「……」

 やっぱり気付いていませんでしたよ、このお坊っちゃまは。自分の体なんだからわかれって!

「だから熱あんの、御園! なので今日は休…」
「じゃあ愁も一緒に休もう?」
「………、え?」

 俺の悲痛な叫びを遮るようにして聞こえた御園のセリフ。すぐに理解できなくて聞き返す。

「…な、に?」
「愁も休んで」
「……」

 そんな俺にもう一度御園は同じセリフを言う。
 さっきまでの不思議そうな表情とは違い、真っ直ぐ目を見て放たれたそれは御園の本気さが窺えて。つい言葉に詰まり、すぐに返答できなかった。

「良かった。愁も一緒ならいいや。休むよ学校」
「……ちょ!」

 止まっていた思考が御園のそのセリフで再び動き出す。俺の返答を待たず、勝手に了承したと捉える御園は本当勝手だ。

「俺は休まないぞ?! 何勝手に納得してんの!」
「ダメなの…?」
「……ゔ!」

 俺の必死な反論に間髪入れず御園のおねだり攻撃が。
 ずるい、ずるいぞっ! そんないきなりしおらしくなりやがって! 何も言い返せなくなんだろ!!

「俺、愁がいてくれなきゃ心細いよ…」
「御園……」

 わかる、わかるぞ。熱出した時とかって、やたらサミシク感じるんだよな。誰か側にいなきゃ心細いっつーのもわかる。だけど…!

「お願い、愁…」
「………」

 …うるうると潤ませた瞳で上目遣いに頼まれたら、もう承諾するしかないですよね。
 はい、どーせヘタレですとも。所詮御園のお願いは断れないんです。本っ当ーにこの天使の御園にはとことん弱いんだ、俺ってやつは。
 …でも、うん、そーだよな。俺、御園の使用人なわけだし。こんな時こそ御園の側にいてやるのが当たり前なんだ。断るなんて言語道断だよな。

「…わかったよ! 俺も休」
「いけません」
「…むぅ?!」

 俺の決意と重なるようにしてそんな否定の言葉が響いた。

「何を言ってるんですか君は。休むなんて許しませんよ」
「…さ、佐伯さん…!」

 振り返るとそこには、呆れた顔で腕組みをして立っている佐伯さんがいた。

「佐伯…勝手に入って来るなって言…」
「君は学生でしょう? 学ぶことが本分なのに何をそんな簡単に休むなどと言っているのですか」
「…え、や、あの…」
「おい! さえ…」
「君は元気だけが取り柄でしょう? だったら休まずにちゃんと学校に行きなさい。善雅は私が看病します」
「……はぃ…」
「佐伯!」
「それに善雅も善雅です。甘えてないで大人しく寝てなさい」
「……っ」

 さ、佐伯さんて本当先生みたいだ…。あまりの凄まじさに思わず返事しちまった。あのわがままプリンス御園でさえ何も言い返せてないもんな。(途中ものすごく失礼な言葉が聞こえた気がしたけどそこは敢えてスルーしよう)

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