青あらし

□第5話
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「…いってらっしゃい」

 あの後結局俺も御園も何も言い返せず(俺は言い返す気もなかったけど!)すっごく不服そうな顔をした御園と、何だかすげー笑顔の佐伯さんに見送られ部屋を出た。
 いやーしかし、佐伯さんてマジ何者? だって自分が仕えてる御園家の一人息子である御園に対してあの口の利き方だもんな。年上だから普通なのかなぁ? いやでも御園は“佐伯”って呼び捨てだし。…まぁそれは御園だから参考にはならないけど…。
 そんな御園と佐伯さんの不思議な関係をうんうん考えてたらいつの間にか外に出てて。
 …この広い屋敷内で誰ともすれ違わないってすげー奇跡じゃね? つか俺未だに御園家の住人と誰一人として会ってないけど…(爺と佐伯さん以外)。いいのか? 普通にもう1週間とか住んでるけど。
 もう大分慣れたここまでの道のりを振り返り、つくづく変な家だな、と感慨に耽る。(失礼)
 ……と、

「お待ちしておりました、さぁ、どうぞ」
「……ん?」

 聞き覚えのある声が背中からして、同時にがちゃ、と扉の開く音が聞こえた。
 なんかね、もう最近毎日聞いてたから、この声。誰? なんて思わずとも、しっかり耳が記憶してるんです。

「…おはようございます、佐伯さん…」
「おはようございます。爺で結構ですよ」

 記憶通り、その声の主は爺の方の佐伯さんで。振り返り挨拶すると、いつもの人の良い笑顔でそう言ってくれた。
 …のは、いいんだけどさぁ。
 や、さすがに“爺”なんて呼べないでしょ。だって俺の爺じゃないし。それともうひとつ…、

「えと、なんでしょうこれは…?」

 俺が振り返ったそこには、爺だけじゃなく御園家の高級車も止まっていた。

「…御園、今日休みですよ?」
「存じております」
「………」

 もしかしたら御園が休むこと知らないのかなーなんて思ったりもしたけど、ご丁寧に否定されて。
 でも、じゃあなんで? …まさか、ねぇ…?

「さ、参りましょう」
「…えっ!」

 ふと頭に過った可能性を否定しようとしたら佐伯さんにそう促されて。その可能性が現実と化していく。

「ああのっ! ですから御園は今日休みで…!」
「はい」
「…あ、だから車はいい、ってゆーか…」
「そろそろ参りましょう。遅刻をしてしまったら大変です」
「……や!」

 遠回しに拒否をしてみても佐伯さんは俺の話なんか聞かずに持ち前の和やかな、それでいて厳かな雰囲気で俺を扉の開いた車へと導く。
 なんなのなんなの! だから御園は休みなんだから俺だけのために車はいらないってゆーか送ってもらう意味はないってゆーか、なんで俺既に車に乗せられてんの?! ええっ、佐伯さんて意外に強引! …ってそーじゃなくて、御園家の住人はみんな御園みたいに人の話を聞かない強引な人になっちゃうのか?! …ってそーでもなくて!!
 なんで俺って奴は、いっつもいっつもこう流されちゃうのかなぁ!!
 ダメだって、佐伯さんにここまでしてもらっちゃイケナイって、わかってるのに気づくと毎度毎度世話焼かれてて。まるで自分が本当に御園家の住人になってしまったかのように御園と同じように丁重に扱われている。
 違うよなぁ、俺は主人じゃなくて実際は佐伯さんサイドの人間、それ以前に新入りなわけだから、本当は佐伯さんの下で働くべき人のはずなんだ。なのに俺がここまでしてもらうのはやっぱり違う。

「佐伯さん、なんで俺」
「坊っちゃまの大事なお方ですから」
「……ふぇ?」
「声、出ておられましたよ」

 ……マジですか。
 言おうと思ってた言葉を遮られて答えられ思わず赤面する。
 前にもあったような気がする、こんな事。どうやら俺は心でひっそりと考えることができない人間らしい。…恥ず。
 ……って!

「今なんて?!」

 俺の耳が正常ならば、佐伯さんは確かに“俺が御園の大事な人”って言った。大事って、大事って、それはつまり……!

「はい、坊っちゃまの愛しておられる方なので、大事に接するようにと」

 な……っ!!

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