黒バス

□木吉と
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またやって来てしまった。

この季節が。










実 力 テ ス ト

壁にデカデカと貼られた紙を破り捨ててやりたい衝動に駆られた。
そしたらオレ停学処分とかになってテスト受けなくてよくなるんじゃね? とか一瞬思ったが、そしたら部活もできなくなるから意味がないということに気づきその思考は拭い去った。


「そっかーもうすぐ試験かあ」
「ぅおっ、…木吉先輩」


いつの間にいたのか隣に立つ木吉先輩が考えたくもない単語を呟いた。
まあでもオレが今ぶち当たってる問題は期末試験よりも一足先にある実力テストだ。
何故だか知らんが今回からは選択式ではなくちゃんと解答しないといけなくなったらしい。つまり例の鉛筆はもう使えない。そう言えばそのことを先生が告げたあと、黒子が妙に意味深にオレに向かって溜め息を吐いてたけどあれは何だったんだろう。…まあいいか。
とにかくつまり、


「…オレ、今度こそ部活できなくなるかもしんない……」
「前はどうやって凌いだんだ?」


黒子に負けず劣らずな盛大な溜め息と共に吐き出したセリフに、木吉先輩は相変わらずの優しい顔で問い掛けてくる。
そうか、先輩は知らないんだ。


「前はまだ選択式だったから緑間にもらったコロコロ鉛筆で乗り切、…ぅおッ!」


言い終わらない内にオレの腕を掴み木吉先輩は歩き出した。

な、なんだ? 突然どうし―…


「今回はオレが面倒みるから!」
「……」


それが嫉妬だと気づいたけど、ここで甘い空気に持ち込んだらそれこそ補習コースだ。

かくして、今日から部活後の数時間、オレと先輩のふたりきりの勉強会が始まった。







「だからな、えっと、コレはこの公式を使うからー…、」


先輩が家にいるなんて嬉しすぎて目眩がしそうだけど今はそんなこと言ってる場合じゃない。せっかく部活で疲れてるはずの先輩がオレのために時間を割いてくれてんだ、オレは一生懸命習って少しでもいい結果を出すことが先輩への恩返しになる。
と思い、煩悩は押し留め先輩の説明に耳を傾ける。
…のだけれど。

先輩は、親切に、丁寧に教えてくれる。

否、

親切で、丁寧な、

だけ。


「……全然わかんねえ」


せっかく教えてくれてるんだから言うのためらってたけど、あまりにも教科書を読み進めるだけで一向に解決の糸口に導いてくれないから我慢ならなくて言っちまった。
さっきから先輩は、まるで自分も読みながら理解しようとしてるみたいで、教えてる、と言うよりは一緒に学んでる、と言った方が正しいかもしれない。

…なあ、先輩もしかして…


「ははは、実はオレ苦手なんだよな、数学って」

「……」


なに。

さらっといつもの優しい笑顔で爆弾発言。
なに、じゃこの勉強会ってすげ無意味じゃね? すか?


「でも火神の力になりたかったってゆーか、火神がオレ以外の奴に頼るとか嫌だったからさ、」


だから見栄張って引き受けちまった。

先輩の嫉妬には気づいてたとは言え、面と向かってそんな爽やかな笑顔でそんな嬉しいことを言われたら……許してしまうではないか。


「…嬉しい、すよ。それにオレ1人でやるより確実にわかりやす…」
「オレね、何でもかんでも公式に当てはめていくって、人はそれぞれバラバラだから面白いのに、数学のそーゆー勝手なとこがキライなんだよな」


……許せなくなりそうだ。

なんだそれ、勝手な、って数学に勝手も何もないだろう。独自の哲学かなんかか。つか人の話聞いてねェし。…いや、聞かれてなくてよかったか。


「ん? どうした火神」
「……っ」


黙ったオレを心配そうに覗き込んでくる先輩の顔がやけに近くて心臓が跳ねた。
すっとぼけてるくせに、そうやっていちいちオレを翻弄するなんてひどい先輩だと思う。


「……先輩、」
「ん?」


ああ、これを口にしたら補習コース確実かも。



「……先輩、オレが落第したら、責任取って引き取ってくれますか?」


「当たり前だろ!」


にっこり笑顔のあとでそう言ってほっぺにキスを落としてくる先輩に嘘はなさそうだ。

……うん、じゃあ許す。
先輩が引き取ってくれんなら、補習でも落第でも停学でも、何でも来いだ。

テストなんてどうにでもなれ、とさえ思った。














「ちょっと火神君! 補習ってなんで?! 鉄平が見てあげたんじゃなかったの?!」
「いや、それがなリコ、途中から違う勉強会になっちまって。不思議だろ?」
「ここまで赤点揃えたバカガミの頭の中のが不思議だわっ!!」
「……」


実際、補習コースでも何でも来いなわけもなく、カントクの口添えでなんとかオレは部活に出てもいいことになった。
所詮世の中渡り歩けるのは優等生か。…助かったけど。



「バカガミ! これに懲りたら、これから先鉄平といちゃつくの禁止だからねっ!」
「い、ぅえ…っ?!」



なぜかカントクにバレていた。



END
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