黒バス

□氷室と
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世の中にはムダなものが多い。
例えば、これ。カップラーメンの注意書。
電子レンジでの調理はダメって、そんな当たり前なこといちいち書かなくたってそんなことするバカはいないだろう。レンジであっためて、なんでラーメンができると思うんだ。そんな奴がいたら(過去にいたから書いてあるんだろうけど)ぜひお目に掛かりたいね。鼻で笑ってやる。


「って何してんだタツヤ!」
「え? 何って、オレがカップラーメン作ってあげるよって言っただろ?」
「それ電子レンジだけど?!」
「だってお湯沸くの待つのかったるいじゃないか。だからこっちの方が手っ取り早いかなって。タイガもお腹空いただろ?」
「空いたけどダメ! 注意書ちゃんと読んだ?!」
「え、こんなのいちいち読まないよ。タイガ読むの?」
「読まないけど!」


こんなにすぐにお目に掛かれるとは思わなかった。こんなにごく近くにいただなんて知りたくなかった。
だろ? だなんて、タツヤは何がいけなかったのかわかってない上に見事に話題を摩り替えた。こういう手腕は本当に尊敬する。
やっぱり注意書は必要なんだ。だけど読むべき人が読まないんじゃどうしようもないから、やっぱりムダなことに変わりはなかった。
つぅか鼻でなんて笑えない。そもそも笑えない。


「…タツヤも注意書、書いとけよ」
「ん?」
「見た目はわりと何でもできそうだけど、実は抜けてますって」
「それ誉め言葉?」
「……タツヤ本当最高だな」
「うん。誉め言葉だね。そしてタイガは誘ってる」
「誘ってねーけど! …でも、まあいいけど」
「ラーメンのびちゃうなあ」
「タツヤが淹れたの、あれ水だからのびない。…ふやけるけど」
「タイガはもっとふやけちゃうけどね」
「たまにすごくオヤジだよなタツヤ」
「好きだろ?」
「…………すき」


それが問題。
どんなタツヤだって結局好きなんだから、今さら注意書なんて必要ないんだ。だって何を注意されたって関係ない、オレがそのまんまのタツヤを丸ごと好きだから。
そんなこと口にしたら、気を良くしたタツヤが調子に乗ってへんてこな工程の途中のカップラーメンがふやけるどころか食えたもんじゃなくなってしまうから、言ってやる代わりにタツヤのきれいな唇に噛みついてやった。
ああ、でも失敗。タツヤがにんまりととても悪い笑みを溢したから、やっぱりカップラーメンはもう食えなくなってしまうかもしれない。
それも、別にいいんだけど。



END
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