黒バス

□黄瀬と
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12月25日。

真っ赤なサンタの衣装に身を包むケーキの売り子や、真っ赤な鼻のトナカイの着ぐるみで客引きをしてるカラオケ店の店員。街行く人々も仕事中の彼らも、誰も彼もその表情は笑顔に溢れている。

世間はクリスマス。

別にイヴとクリスマスの両日どちらも仕事なのはオレだけじゃない、どころかそういう人の方が多いということは認識しているしとやかく言うつもりはない。オレまだコーコーセーだけど。仕事好きだし。
だけど、クリスマス寒波とはよく言ったものだ。ここ最近ずっと寒かったけどそれに輪をかけて冷える今夜の風は、ひとり帰路を辿るオレの身にこれでもかと突き刺さり体だけじゃなく心の芯まで冷やされた。


「今何してるかな…。もう寝てるか」


携帯を開くとディスプレイに表示された時間は23:42。もう間もなくクリスマスが終わる時刻に差し掛かっていることに気付き、普段から他人と比較して寝るのが早い会えずじまいの恋人を思い浮かべひとりごちた。
そしてせめてもと、寂しい思いを振り切るようにメールを打つ。


メリークリスマス
おやすみ


その言葉と、仕事場にあった小さなツリーの写真、それだけ添えて送信。
オレの元には真っ赤な服に身を包んだサンタクロースなんて来ないけど、真っ赤な髪をした恋人に幸せをあげられるようにと、そう願い、あと少しの家路を急いだ。


結局家に着いた頃にはもう12時を回っていて、帰ってすぐ倒れ込むようにして眠りについた。

オレと彼の、初めてのクリスマスは終わっていた。





***





ひやり、冷えた空気に肌を撫でられ目が覚めた。部屋にいても今日は冷える。
だけど、何か妙だ。左半身だけやけに温かい。
そう、これはまるでヒトの温もり───


「、え……?」


目を開けると隣には、静かに寝息をたてオレに寄り添うようにして眠る真っ赤な髪の恋人がいた。


「…火神、っち…?」
「……んあ、…はよ」
「おはよう…」


まだ眠いのか一瞬だけ開けてすぐにまた閉じられた目。発した声も寝惚けているのかいつもの力強さは感じられない。

……じゃなくて、


「なんで…?」


ここにいるのか。
確か彼は昨日も今日も大事な試合があったはず。オレも仕事が入ってたし、だからイヴもクリスマスも会えなかったはず、なのに。


「………」
「…何ガン見してんだよ」


信じられずにじっとその寝顔を見ていたらその視線に気づいた彼が眉根を寄せて再び目を開いた。
不満げな言動とは裏腹、彼の口元は仄かに綻んでいて。

…もう、何でいるのかなんてどうでもよくなっていた。
だってこうして、目の前に大好きな彼がいてくれるんだから。


「メリークリスマス、黄瀬」
「──え、」


つってももう26日だけどな。そう続ける彼はきっと物凄くひどい顔だったんだろう、オレを見て笑いながらお前アホ面だぞ、ってそんなことはどうでもいい。
くちびるに落とされた彼からのキスは、オレの人生で一番最高のクリスマスプレゼントに間違いないから。

サンタクロースは現れた。
オレの一番欲しかったモノを携えて。

まるで夢を見ているようだ。
だけどここにある彼の姿、声、温もりはどれもリアルで。


「…メリークリスマス、火神っち」


この現実を確かめるように、手放さないように、真っ赤な髪をしたサンタクロースにお礼と愛を込めてキスをした。

柔らかく笑う彼の表情を見届けて、そしてふたり、しばらくあったかいベッドの中で抱き合っていた。

一日遅れの、ふたりだけのクリスマスが今、始まる。



END
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