黒バス

□黄瀬と
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「…あの。青峰っちになつくのやめてもらっていいっスか」
「は?」


行きつけのストバスコートからの帰り道、いきなり現れた黄瀬にいきなり言われた。
どうして青峰? つか大体にして、


「なついてねーし」
「なついてるじゃないっスか、今だって二人で会ってたし…」
「バスケしてただけだ」
「それをやめてほしいんス!」
「……」


わからない。
なんで黄瀬にんなこと指図されなきゃなんねーんだ。確かについさっきまで青峰と1on1してたけど…ってなんで知ってる。見てたのか。


「やだよ」
「なんで!」
「こっちが なんで だよ! なんでお前が口出しすんだ!」
「えっ! ……」
「あ?」


オレが反撃に出るとさんざん喚いてたくせに今度は急に黙った。顔を赤らめて(キモイ)。
しかし、そこで聡明なオレはピンときた。
ガキの頃タツヤに、『タイガは鈍感すぎる』って怒られたことがあった。鈍感ってなんだと問えば『人の気持ちに鈍感だし視野が狭い』、だそうだ。どーゆーことかと周りを見渡せば答えはすぐに出た。そこら中で絡まり合う男と男。つまり、同性愛者ってやつ。確かにオレだって最初はなんで男同士でってビビったし、すぐそばにそーゆー奴らがいるっていう認識もなかったから正直理解できなかった。だけどその中にはごく近しい友人達も混じってた。ノーマルだと、つかホモだなんて考えもしなかった連れが同性愛者だったんだ。知った時 驚きはしたが連れは連れだ、すぐに受け入れられたし祝福もした。オレは寛大なんだ そこんところ。だからタツヤに鈍感だとか視野が狭いだとか、そもそもなんで怒られたのかわからなかった。そうタツヤに告げたらタツヤは『そうじゃない』ってまた怒った。…あれ、そう言えば結局なんであの時タツヤは怒ってたんだっけ? …まあいいか。
とにかく、今の黄瀬の表情はその時レンアイしてた奴らと似てるんだ。
だから、あれだ。つまり、こうだ。

青峰に恋してんだ、黄瀬は。

まあでもわかったところで人の恋路を邪魔する気はもちろんないが自分の欲望を抑える気もさらさらない。だってオレは青峰とバスケがしてーんだもん。黄瀬を応援する義務も義理もない。


「黄瀬の気持ちはわかった。だけどその願いは聞けねーな」
「うえっ、わか…っ! や、なんで聞けないっスか!」
「別にいーじゃん、オレが青峰のこと好きなわけじゃねーんだし」
「でもオレのこと好きなわけでもないっスよね…?」


それはオレに聞かれても。
オレはお前のライバルにはなり得ない(なってたまるか)、そう伝えてやってんのに黄瀬は納得するどころか ぐいぐい詰め寄ってくる。
青峰の気持ちなんか知るかっつの。つかめんどくさいなコイツ。女々しっ! 黄瀬女々しっ! そんなに気になんなら、


「はっきり直接伝えりゃいーだろ!」
「ええっ!!」


ガキの頃のタツヤといい黄瀬といい どうしてそう回りくどいんだ。人のこと鈍感とか言う暇があんならズバッと言えば早いだろーが。
そんな大人なオレのありがたい言葉が響いたのか、黄瀬はまたまた顔を赤らめて(だからキモいって)声を大にして叫んだ。


「すすす好きっス!!」
「そーだよ初めから言――」


…おい。それはさすがにテンパりすぎだろ。
何を焦っているのか、黄瀬の努力は無駄な体力を消耗しただけに終わった。
せっかくの勇気だけどな、言う相手が違う。


「お前つくづく黄瀬だな…オレに言ってどーする」
「…え? いや、火神っちに言わないで誰に言えと…」
「え? そりゃ告白は好きな奴にするもんだろ」
「え? だから火神っちにしたんスけど…」
「え?」
「…え?」
「……え、」
「……」
「……」


黄瀬が好きなのって――オレか。
あれ、じゃあ嫉妬してたのはオレにじゃなくて青峰に?

……オーマイガッ。


「…むり」
「ムリって! ひどくないっスか火神っちがもうわかってるとか直接言えとか言うから勇気振り絞って伝えたのに!!」
「いや んな逆恨みされても! だって青峰のことが好きなもんだと思ったから…!」
「はああ?! いつ誰が! そんなこと言ったっスか! しかも逆恨みなんてしてないっス!!」
「ええええ急に強気とか…」


胸の奥にしまいこんでいた想いを吐き出せて肩の荷が下りたのか、途端に攻撃的になった黄瀬が距離を詰めて喚き出す。いろいろマズイと悟った聡明なオレは詰められた距離をまた開けるため後退る。

その時 脳裏にガキの頃のタツヤがちらついた。
『ほらね』って鼻で笑われた気がした。
今ならタツヤがなんで怒ってたのかわかるよ。だってそっくりだ、あの日のタツヤと今の黄瀬の顔。
ごめん、幼い日のタツヤ。オレへの好きの気持ちに気づいてやれなくて。
そして。

…たすけて。


目の前の黄瀬から逃げ出す術を見出だせず、オレは遠い過去の記憶にすがった。



END
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