黒バス

□黄瀬と
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しとしと、窓の外は雨が降っている。

明日は互いに部活もなく、また黄瀬のモデルの仕事も夕方からなため、明日の昼過ぎまではふたりの時間が合うということで火神は部活が終わった足そのままに黄瀬の自宅へ泊まりに来ていた。

黄瀬宅へたどり着いてから数十分。
迎え入れてすぐ火神を抱き締めた黄瀬は、未だに火神を解放していなかった。
会えなかった空白の時を埋めるように、思い切り息を吸い込んで火神を堪能する。
火神は黄瀬の腕に抱かれながら、幾分激しくなってきた雨粒が窓にあたる音を遠くに聞いていた。



「火神っち」
「ん?」
「火神っちー」
「なんだよ」


耳元で黄瀬が名を呼ぶ。
くすぐったくて火神は身動いだが、そんな少しの動きだけでは黄瀬はびくともせずにただ名前だけを呼び続ける。


「へへ、久しぶりだから嬉しくて」


だから充電ー、
へらりと笑いながら黄瀬は飽きずに火神を抱き締める。
そんな嬉しそうに笑われては、引き剥がすこともできずされるがままの火神。
部活の疲れも相俟って、黄瀬の力強く、それでいて優しい腕の心地好さに完全に身を任せていた。

暫くそんな時間を過ごしていると、ふと、黄瀬の左耳に光るピアスが目に入った。
今まであまり気にして見たことはなかったが、こう近くにあると気になってくる。
黄瀬が喋る度に揺れるそれは、一種の催眠のように火神の脳髄に直接何かを語りかけているようで。

痛くないのだろうか、
そんな思いと共に徐に火神は黄瀬の耳に触れた。


「…ん、そこ触られんの好き」


突然火神の標準より少し高めの体温に触れられ驚いた黄瀬だが、それは一瞬。すぐにその行為に愛しさを感じ、甘えるように火神の肩口に顔を埋める。


「もっと触って。すげー気持ちいい」


火神は火神で、そうだったのか、そう思いながら言われるままに触り続ける。
今までこんなとこに触れたことなかったのに、そんな思いで丹念に、丁寧に、慈しむように触れた。


「…ぷ、火神っちいっつも触ってんじゃん」
「……え?」


すると黄瀬が笑いながらそう漏らした。
火神の疑問は顔に出ていたようで、黄瀬は微かに肩を震わせる。その動きに連動し手の中で揺れるピアス。
一体いつ自分は触れていたのか、全くそんな気はなかった。
無意識下でのことを黄瀬に指摘され、火神は急に恥ずかしくなり手を離した。



「…ね、火神っち。キスして」


やがて黄瀬のおねだりは恋人同士の甘いそれに変わり。
離れていった火神の指を掴むと、キスをねだったピアスの填まる耳朶へと再び導いた。

やだよ、
恥ずかしさからすぐに断ろうとした火神だったが、黄瀬が顔を上げたことによって思いの外近くにあったその真剣な眼差しに当てられ、用意した言葉は飲み込み、引き寄せられるように触れさせられた黄瀬の耳朶へと顔を近づけた。


「……ん、」


始めこそ躊躇っていた火神だったが、一度口にすると止まらなくなった。
食むように何度も何度も、黄瀬の耳朶をピアスごと舌で転がす。


「…ぅ、あ…火神っちやば…なんか……」


えろい。

そう言われ火神は慌てて黄瀬から離れようとしたが、黄瀬の方が腕力があるためあっさりと再び腕の中に連れ戻されてしまう。
覗いた黄瀬のその瞳は。



「…ごめん、火神っち。明日のデートはキャンセルで」



雄の色気を含み、妖しく光っていて。

今しがた自分がしていた行為で十分高まっていた火神は、もう黙って頷くしかなかった。



いつしか雨音は聞こえなくなっていた。



END
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