黒バス

□青峰と
19ページ/27ページ


別に寂しいとかつまんないとかじゃねえ。ただ不便だから。ほら、メシとか風呂とか…そうじとか。だからお前はオレに無断でどっかに行ったらダメなんだ。いくら出掛ける前に完璧にこなしていってもダメ。メシあっためるのだって風呂にお湯淹れんのだって手間掛かるだろーが。それからあと、オレが話したい時に相手がいないのはイライラすんだろ。はァ? だから寂しいとかつまんないとかじゃねえって。何笑ってんだよ。いいか、とにかくオレがダメっつったらダメなんだ。お前はここにいろ。わかったな。



「で、どこ行ってたんだよ」
「もう帰って来たしいいだろ。メシあっためるな」
「よくねえよ。オレが聞いてんだ答えろ」
「えー…」


バシバシと自分の隣の床を叩いてここに座れと大我を促す。奴は聞いてんのかいないのか、言うとまためんどくせえな…なんて独りごちながらラップの掛かったメシをレンジであっため出した。
ほわん、香りだす美味そうなニオイ。今日は回鍋肉か。
って めんどくせえってなんだ。


「だって嘘吐くとキレそうだし正直に言ってもキレそうだし。ご飯どんくらい?」
「キレるようなとこ行ってたのかよ。大盛りな」
「お前限定でな。別にキレられるようなことはしてねえよ。味噌汁飲む? 今朝の残りだけど」
「じゃあ言えよ。疚しいことねえんなら言えるだろ。飲む」
「…じゃあ言うけど」


ことり、湯気のたつ味噌汁の入ったお碗をテーブルに置き、腹を括った大我はついに自白。


「アレックスに会ってた」
「…アレックスぅ?」


しかし大我の口から吐かれたその真相は、菩薩のように優しく心の広いオレでもさすがに許容範囲を越えていて持っていたお碗をごとりと落とした。
堂々と浮気宣言か。いい度胸だなコノヤロウ。


「どこの野郎だよ。オレよりイイのかよ」


不意に出された知らねーガイジンの名にイライラが募る。別にオレがいんのに男に会いに行ってた事実に動揺したわけじゃねえ。その悪びれもしねえ態度にムカついただけだ。そうだよ、ムカついてんだよ。何お前オレほったらかして男に会いに行ってんだよ。
ぶち撒かれた味噌汁をせっせと拭く大我をギロリと睨む。


「なんかお前想像通り勘違いしてるみたいだけど」
「勘違いだぁ? 言い訳は聞かねーぞ」
「うん、まあいいけど。アレックスは女だぞ。ちなみにオレの師匠な」
「――、女?」


ほらめんどくせえ、だから言いたくなかったんだよ。って大我はあっという間にテーブルをキレイにして呆れ顔。それに釣られオレも呆れ顔。
ああそう。女なのアレックス。紛らわしいな。


「…ついに女に目覚めたか」
「何だよそれ。知ってるくせに」
「まあな」


女に恋愛感情を持てない大我が浮気してるわけねえとわかっても、自分の非を認めることだけはしたくなくて手際よくよそり直された温かい味噌汁を一口啜り茶化す。つかそもそもオレが怒ってんのは浮気どうこうの前にお前がオレ置いて出掛けたことなんだからな。何してたとかどこ行ってたとか以前の問題なんだよ。忘れんなよ。


「お前がしつこく聞いてきたんだろーが」
「しつこいってなんだ。お前は黙ってオレの横にずっといりゃあいいんだよ」
「ぷ。なんだそれ。プロポーズ?」
「…うっせぇなあ。ちげーよ笑うなっつってんだろ何がおかしいんだよ」
「いや。…なあ、さっきの嫉妬?」
「あ?」
「アレックスに」
「……」


オレの怒りをすり替えた挙げ句見当違いなことを言う大我は実に愉しそうだ。むかつく表情だなくそ。嫉妬なんてだせーことオレがするかよ。ふざけんなよ。自惚れんな。


「んなわけあるかバーカ」
「あっそ」
「……」


心のまま突き放してみてもまだ笑ってやがる。自分でも気づいてない何かを見透かされてるようで悔しくて、面白くなくて。無言のまま最後のご飯を掻き込むと丁度のタイミングでお茶が出てきた。
…お前本当オレのこと好きな。


「ところで」
「ん?」
「その女おっぱいでけぇの?」
「……」


大人なオレはそれ以上突っ掛かるのはやめて、食後のお茶を啜りながら妙に機嫌のいい大我に訊ねる。おっぱいでけぇ知り合いがいるとかずりーだろ。しかも年上のガイジン。うわ、えっろ。


「…死ねケダモノ」
「大きさ聞いただけだろ」
「知るか!」
「んだよ嫉妬か?」
「はぁ?!」
「アレックスに」
「してねーよ!」
「まあまあ」


気になったことを聞いただけなのに途端に機嫌の悪くなった大我はさっきまでとは形勢逆転、笑い出したオレに笑ってんじゃねー! と怒鳴り散らす。そりゃ笑うだろ。自分の師匠に嫉妬とか、あまりの愛され具合に笑いが止まんねえよ。どこまでオレのこと好きなのお前。
すると大我はオレの質問に答えるどころか、お返しとばかりにお前にも桃井がいるだろ。ってさつきの名前を出してきやがって正直萎えた。あいつはどう転んでも幼なじみの腐れ縁、突如訪れた生々しい現実に大我の頭を一発殴ってやった。


「ってーな! なにすんだ!」
「いい気分を台無しにするからだ」
「殴ることねーだろ! つか台無しにされたのはこっちも一緒だっつの!」
「まあ一言謝れば許してやるよ」
「オレが謝んの?!」
「当たり前だろ。オレ置いて出掛けたんだから」
「そっちかよ! つかまだ言うか!」
「は? だから初めからそれだっつってんじゃん」
「…まあいいけどよ。謝んねーし」
「…あぁ? なんでだよ」
「わりーと思ってねえもん」
「はァ?」
「悪くなかったら謝るなって。日本人はすぐ謝るから漬け込まれるんだって教わったからな」
「…誰に」
「アレックス」
「……」


こんなにオレが譲歩してやってんのに身勝手な大我は首を縦に振りゃしねえ。どころか、オレの嫌な予感的中で再び出てきたその名をにんまり悪い笑みで答えるその様は確実に愉しんでやがる。
お返しのお返しの、そのまたお返しか。何にせよ余裕たっぷりで明らかに煽ってるその誘いに乗らない手はないだろ。そうだぞ。お前が誘ったんだからな。覚悟しろ。


「そっちがその気なら」
「受けて立つって?」
「まあ受けんのはお前だけどな」
「バーカ」


甘い雰囲気なんてくそ喰らえ。あるのは欲望と確かな愛情だけ。
悪態を吐くその憎らしい唇にお望み通り最初から噛み付くように激しいキスをかます。首に回された腕の温もりと力強さに、執念すら感じ心地好かった。





「――もうアレックスに会うの禁止な」
「やっぱ嫉妬してんじゃん」
「してるよ。わりーか」
「……え、」


つい正直に言っちまったら大我にキモイと一蹴された。
言うんじゃなかった。つか言葉のアヤだから本音じゃねえから。あっおい信じんなよバカ! にやけんな!



END
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ