黒バス

□青峰と
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「なー。お前は何でオレとヤってんの?」
「……は、」


セックスのあと、何の前触れもなく切り出したオレに火神は怪訝な顔をした。

オレとコイツは所謂セフレってやつで、出会って数ヶ月した頃からもう幾度となく体を重ねてきた。
理由なんかねえ。
互いが互いに手を伸ばし、気づけばそんな関係に収まっていた。

――いや、前触れはあった。
ツラそうに顔を歪めてるのを、声を上げまいとガマンしてるのを、オレは知っていた。
知ってて突き上げる。
奥へ、奥へと。
その顔が気に入らなくて。何を思ってオレとこんな事をしてるのか。
いつからか漠然と考えてた。

変な話だ。
初めは何も考えずともヤれたのに。今じゃコイツの、表情や心情がイチイチ燗に障る。


「キモチイイから?」
「……それはお前だろ」
「、あ?」


答えない火神に代わり更に問い掛けるが逆に返された。

確かにキモチイイけど。
でも、だからと言ってキモチイイからヤってるかって言われたらそうじゃねえ。いや、キモチイイのは事実だけど。

だけど、それだけじゃない何かがあるような気がしてならなくて。
それを知りたくて。


「お前に聞いてンの」
「………」


再度詰問しても火神は答えない。
でも知ってる。


「好きだからだろ?」
「………」
「オレの事が、好きだから」


だからセックスしてんだろ。

勝手な想像、だけど想像じゃない、はず。


「………どーかな」
「…よし、来いよ火神。認めさせてやるから」


その言葉は誰のためのものなのか。

挑発的な答えに片頬を上げ笑い、ベッドの端に腰掛けてる火神の肩を掴み押し倒した。











「……っふ、」
「……ッ」


火神はやっぱり口を割らない。
いい加減認めちまえばいいのに何をそんなに意地になってんだか。


「なぁ、早く言っちまえって。オレが好きなんだろ」
「……だ、れが…っ」


認めちまえば楽なのに。
手放しでただ快感だけを追っていられるのに。

手の甲を口に宛て涙を浮かべ睨んでくる火神はあまりにも扇情的だ。その強気な態度、是が非でも屈伏させてやりたくなる。

ぺろりと舌舐めずりをして腰を抱え直し、わざとイイトコを外し焦らすように腰を回す。
短く唸った漏れ出た声にぞくりと震えた。


「意地張ったっていい事ないぜ? ほら、認めろ」
「…う、るせ……っ」
「………」


ああ、くそ。
何だコレ。

肩で息をしながらも尚も堕ちてこない火神に、苛立ちや征服欲とは違う何かが芽生えた気がした。

そっと頬を撫でる。
びくっ、肩を揺らしてうっすら目を開ける火神。
唇が、『あおみね』と形作った気がした。



───まずい。



「――火神、いい加減に…」
「……んっ、」


いつもより声色が甘ったるい気がするのは、気のせい、にしては心臓の音がうるさすぎる。


早く、認めろ。


認めろ。




「―――好きだ」
「……」
「好き、」
「……」
「あいしてる」
「───ッ!」


認めさせたかったはずの言葉は何故かオレが口にしていて。
やけに近くに呼吸と鼓動を感じると思ったら、火神はオレの両腕の中に収まっていた。


あいしてる、って。

おいおいマジかよ。
笑わせんなよ、何言ってんだオレ、


……と思う反面、こんな言葉ひとつ口にしただけで心が軽くなった気がした。
蟠りが溶けてなくなる。肌が粟立つ。
腕の中の火神の存在を、愛しく感じた。


ヤバイ、オレ、相当焦ってる。



「……っまえ、ずる…い…っ!」
「……あ?」


不意に、ずっと黙っていた火神が抗議の声を上げた。

ずるい、って何が。


「…っんで、今…っ、そ、ぉゆーこ、と…っ」
「………」


ずるいのはお前だろ。

いつもは、火神だけじゃないが甘い空気なんざ二人にはねえ。互いの名前を呼び合う事も見つめ合う事も、ましてや愛を語り合うなんて事も。
それなのに。
何なんだよ、お前の今のその顔、その声、その行動は。
そんな蕩けきった顔で背中に腕回されたら…オレもう止まんねーよ?


「…なァ、早く認めちまえよ」
「……んっ」
「…好き、好きだぜ、……大我っ」
「――あっ、あ、おみね……ぇっ!」


抑えが効かなくなってスピードを上げ譫言のように愛を囁きながら最奥を突けば、火神は背を反らせオレの名を呼びながら、イった。
瞬間、締め付けの凄さとその音の心地好さに、オレも火神の内で爆ぜた。




「……なぁ、早く、」


呼吸を整えながら何度目かの問い。

認めろ。

オレの想像なんかじゃないって、認めろ。


認めろ。



「……………好きに、決まってんだろ…っ。じゃなきゃ、こんなこと……」
「………」
「ぅ、あ…っ、おまっ、また…っ」


抜かずにいたオレ自身が火神の内で再度硬さを取り戻した。
喘ぐ火神の頬を両手で包み込み、初めてのキス。
初めての感触に、胸にじわりと甘さが広がった。


「……声、抑えんなよ」
「………抑えろって言われても、たぶんムリ……」
「―――ッ、」


抱き締めた火神の鼓動とオレの鼓動が重なる。
どっどっどっ、
聞いたことのない速さに目眩がした。

今夜は、眠れないかもしれない。



END
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