黒バス

□黒子と
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ヴヴヴヴ、
机の上で小刻みに動く携帯電話。
小さな窓には誰かからの受信を知らせる光がチカチカと点る。
完全に止まる前に、バイブの振動により机から落ちそうになった携帯を救い大きな手で慣れたようにメールを返す彼の姿は、もうここ何日かで随分目にした。


「…また、黄瀬くんですか」
「ん? あぁ、今自習なんだってよ」
「…そうですか」


ボクの問い掛けにこちらを見もせず火神くんは答える。
黄瀬くんの予定なんてどうでもいい。
ボクが気にしているのはメールの内容ではなく、火神くんと黄瀬くんがメールをしていること自体だ。

完全に、ミスだった。
何故あの時ボクは黄瀬くんに火神くんのアドレスを教えてしまったのか。
おかげで最近火神くんは毎日黄瀬くんとばかりメールをしている。
まあ、見ている限りでは火神くんからメールを送信することはなく、黄瀬くんから来たものに対して返信するスタンスのようだが、それでも火神くんが火神くんの意志で黄瀬くんにメールを送っていることに変わりはないのでやはり気に入らない。
と言うか黄瀬くんの分際で火神くんに一日何通もメールを送っていることが既に気に食わない。

じっと火神くんを見つめる。
最後の送信ボタンを押したのか、うしっと漏らし携帯をふたつに畳んだ。

どうにも抑えきれなくなったボクは再び机に置かれた彼の携帯に手を重ね、不審そうな面持ちの火神くんに思いの丈をぶつけた。


「ボクも火神くんとメールしたいです」
「あ? 毎日会ってんじゃん、メールすることなんかねェだろ」
「あります」


間髪入れずに切り捨てられた願いに間髪入れずに言い返す。
毎日会ってんじゃん、そのセリフにはぐっと来ましたがそれとこれとは話が別です。
互いの自宅に戻ってからのメールのやり取り、何だか恋人同士っぽくていいじゃないですか。
是非、火神くんとヤりたい。


「今晩メール送るので、ちゃんと返してくださいね」
「…わーったよ」


まだ腑に落ちないといった表情ではあったが、ボクが言い切ると火神くんは渋々承諾してくれた。
そのことに安堵し、火神くんの携帯から手を離した。


実はもう、送りたい言葉は決めてある。
ああ、火神くんは一体何て返してくれるのか。

ボクは今晩が待ち遠しくて仕方なかった。





***





「…なんで昨日メール返してくれなかったんですか」
「黒子…!」


翌朝。
火神くんを見つけすぐ昨晩のことを問い詰めた。
約束通りボクはメールを送った。なのに、火神くんからの返信はなかった。
携帯を握り締めたまま今か今かと心待ちにしていたボクに酷い仕打ちだ。
理由によっては許しますが、理由によっては…。


「いや、どう返せっつんだよ!」
「、え?」


あんなメールに返すことなんかねェ! 理由を言うどころか火神くんは顔を赤くしてそう叫ぶだけ。


、あんなメール?

ボクが送ったメール、たった一文。




『好きです』




「あるでしょう、ありがとうだとかオレも好きだとか、抱いてくれだとか」
「あるか! つか最後なんつった!」
「照れる気持ちもわからなくないですし可愛いですが、そこはもっと素直になるべきでしょう」
「黒子オマ、何言ってんだ!」


どうやら火神くんは照れていただけのようだ。
それならば許します、何て言ったって可愛いですから。


「仕方ないですね、じゃあ今晩またチャンスをあげます」
「はぁ?!」
「ラストチャンスですからね」
「や、いらねーよ!」


未だに赤い顔のままの火神くんに約束をこじつけて、もうこの話は終わりとばかりに喚く火神くんは無視することにした。


黄瀬くんとなんかメールをする暇がないくらい、ボクが火神くんを悩ませてあげますから。






「おいコラ黒子! ムシすんじゃねェ!!」


本当に可愛い人だ、あなたは。



END
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