黒バス

□黒子と
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「なぁ黒子、お前好き嫌いあんの?」
「………はい?」
「だーから、好き嫌い…っつか主に聞きたいのは嫌いなモン、ある?」
「それはありますよ」


火神の突然すぎる問いに黒子が答えると、火神は「あるんだ」と驚いた。


「…度々思いますが、火神君はボクを何だと思ってるんですか。嫌いなモノくらいあります、人間ですから」
「いや、悪ィ。意外だったから」


黒子が拗ねたように言えば火神は別段悪いとは思ってない風に言い、「で、なに?」と話を進めた。
そんな火神に黒子はやれやれと肩を竦め、しかし密かに恋心を抱いている火神が相手なので嫌な思いをするはずもなく、彼の待ち望んでいる言葉を口にした。


「そうですね…やっぱりバスケをバカにする人は嫌いです」
「……」


答えたのに火神は憮然とした態度。何が不満なのだろうと黒子が見つめれば火神は声を荒げ、


「好き嫌いっつったら食いモンのことだろーが!」
「………そう、ですね」


その理由に火神らしさを感じ黒子は一瞬面食らったが、それ以上に心があったかくなった。

ちゃんと聞いているのか、はたまた聞いていたとして本当に知りたいことなのか。黒子には到底わからなかったが、火神が満足するならそれでいいと、深く考えるのはやめた。


「うん、わかった。サンキュー」
「いえ」


そうして火神は黒子が火神に惚れた理由でもある屈託のない眩しい笑顔を浮かべた。
それだけで黒子の心は満たされる。


火神がそんなことを聞いてきたその真意は、翌日すぐにわかることになる。





***





昼時。
いつも真っ先に食事の場である屋上に向かい買い込んだ大量のパンにかじりつく火神だったが、今日は何故か端から見てもそわそわしているのがわかる。惚れた欲目ではなく、火神はそういうところが実にわかりやすいのだ。
黒子はどうしたのかと声を掛けようとして、止めた。面白いから暫くそのままにしておこうと思ったのだ。


「………」


しかし、中々動かない。
明らかに困っているような火神につい親心のような心情が現れ、黒子はとうとう声を掛けた。


「どうしたんですか?」
「ッ、……なん、も、ねぇよ」
「ボクお腹空きました、早く行きましょう」
「………お、おおぅ…」
「………」


明らかに何かあるのは目に見えている。しかし火神は必死に平静を装おうとしているので何も聞けない。そう言えばろくにこちらを見ようともしない。

かなり気になったが、取り敢えず予め買ってあったパンなどが入っているビニール袋を引っ提げ、二人並んで屋上に向かった。






屋上についても火神の様子がおかしいのは直らなかった。
気になるが本人が言い出すまで待とうと、黒子はパンに手を伸ばした。

ところ、


「くくくくくろこっっ!!」
「………」


その手を火神の手に止められた。
突然のことに驚いた、他に、試合時にはしょっちゅう触れているその体が今こうして日常の風景で触れ合っているという事実に、黒子は身体中の熱が上がるのを感じた。


「……何ですか、火神君」
「…………う、」


その思いは隠しいつものように冷静に言えば、火神は自分の行為に顔を赤くして言葉に詰まっていた。
やめてくれ、黒子はそう思った。
この行為にこの表情、もう衝動を抑えるのが苦しかった。


「…火神君、これではパンが食べられません」
「………」


これで火神の手は離れてしまうだろう、こんな時でも容易に顔を覗かせる自分の冷静さが黒子は嫌になった。

しかし。


「―――っ、食うなら、こっち食えばいいだろッ」
「………え?」


火神は手を離すどころか、顔の赤みを消すどころか、更に顔を赤くし、黒子の手を掴んでいない方の手でがさりと袋を差し出してきた。
ちらり、覗いたのはどう見てもお弁当箱で。


「……これは?」
「……こっ、れは…っ」


予感がしてしまう。
都合のいい、予感が。


「…これは?」
「………こ、れは……」


その予感は高まるばかりで期待へと変わる。


「……………べんとー、…作った。……黒子、の…」
「……何故?」
「………」


そして、期待は決定的なものへと。


「………誕生日、だろ…だから、前オレの手料理食ってみたいっつってたから…だから……」
「……何故ですか?」
「……え、だから誕生日…」
「ボクの誕生日に何故、火神君は手料理を作ってきてくれたんですか?」
「っ、…そ、れは……」
「それは?」


意地悪だっただろうか。
もう期待通りの、いや、期待以上の答えは見えている。でも、彼からのその一言が聞きたくて。


「……っ、うっせーな! 黒子が好きなんだよ悪いかっ!」
「………悪くないです」


恥ずかしさのあまり吹っ切れたのか、怒鳴るように火神は言った。
その彼らしい告白に黒子はふ、と笑み、「ボクも大好きです」、そう告げ触れ合っていた手の甲にキスを落とした。
その行為に「お前キザ…」と火神がぶっきらぼうに言ったが、真っ赤に染まった顔ではその必死の照れ隠しも意味を成してないなと、黒子は愛しさが溢れ、また笑った。


「……笑うな」
「可愛いなと思って。さあ、火神君。ボクお腹ペコペコです」
「う……だからコレやるから食えって」
「お腹、ペコペコです」
「………」


雛鳥のように口を開け待つ黒子のその姿に火神は求められていることを理解したが、だからと言って躊躇いなくできるわけもない。
しかし、口を噤み動けずにいたが黒子の真っ直ぐな強い眼差しに見つめられては敵うはずもないと、火神は震える指で箸を掴み黒子の口に好物だと言っていたゆで卵を運んだ。


「…おいしいです、とても」
「……とーぜん」


素直な感想を述べれば火神はいつもの強気を取り戻し、それでもいつもより赤くなった頬で答えた。


「黒子」
「はい」
「誕生日、おめでとう」
「……」


笑顔に乗せて告げられた祝辞に、返事の代わりに黒子はキスで答えた。



END
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