黒バス

□複数と
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「やー偶然っスね火神っち!」
「…ぐーぜん?」
「こんなところで会えるなんて、運命感じないっスか!」
「うんめい…」


地区違うのに偶然なわけあるか、何が運命だ。そう思ったが口には出さず、人の良い笑顔を携えながら近付いて来る黄瀬に火神は溜め息で返した。

完全に、目をつけられている。
理由は薄々…というか、確実にアレだろう。

黄瀬は黒子に執心だ。わざわざ離れた場所から自分のチームに誘いに来てしまうほどに。
それをバッサリ断られて以降はもう諦めたかのような口振りではあったが、それでも幾度となく黒子に会いに誠凛に来ていた。

そう、黄瀬の狙いは、黒子。その黒子がバスケの相棒に黄瀬ではなく火神を選んだことが気に食わないのだろう。
あれ以来、黒子に会いに来たその足で必ず火神に絡んで来る。偶然を装って。黒子に会いに来たついでに。きっと『黒子っちはオレのもんっス!』とか、到底火神にはどうでもいいことを牽制しているつもりなのだろう。


「……おい、黄瀬…ってうおッ?!!」


黄瀬が黒子を気に入っていることも黒子が自分を選んだことも自分には関係ない、そう思い、火神は最近めっぽう鬱陶しくなっていた黄瀬の訪問を咎めようと口を開いた。
途端、制服の襟首を何かに後ろから引っ張られた。
突然のことと何気に苦しいそれに驚き顔を歪めると、向かい側に立つ黄瀬はそれ以上に酷い顔をしていた。
見慣れない黄瀬のその表情は火神の後ろ、自分をこんな状態に陥れている人物に向けられていると気付き、火神は辛い体勢のままそいつの顔を拝んでやろうと首を捻った。


「よお、火神」
「ああ、あおみ……、んッ?!」


そこにいたのは黄瀬の元チームメイト、青峰で。
何で青峰がここに? とか、どうして黄瀬が睨んでんだ? とか、そう火神が思うよりも早く、火神は青峰に口を塞がれていた。



「…ばッ、何してんだよテメッ!」
「あ? アメリカじゃ挨拶こーすんだろ? お前に合わせてやったんだよ」


唇が離された瞬間火神は怒りに任せ青峰に殴り掛かった。その手は軽く受け止められてしまうが、悪びれもせずどこまでも偉そうな青峰のその言い種に、火神は屈辱的なその行為に怒りが蓄積されるどころか一気に怒る気が削がれてしまった。


「…バーカ、アメリカだってそんなんやらねーよ」
「たまにはいーだろ」


呆れを含んだ呟きにやはり傲慢な態度のまま返してくる青峰に、火神は今度こそ完全に怒りが失せた。それどころか、ここまで利己的になれる青峰に感服し笑いさえ零れた。


「おま、マジ笑える! どんだけ自分本位なんだよ!」
「はぁ? 笑ってんじゃねぇよテメェ」
「だってすっげ自分勝手! さすがだな」
「お前ほどじゃねーよ」
「は? オレのどこが」


火神と青峰は大きな体をどつき合いながら互いに互いを貶し合う。会話だけ聞くと喧嘩腰だが、その顔は実に楽しそうで仲良くじゃれ合っているようにも見える。
そうなると面白くないのは黄瀬だ。目の前でふたりの世界に入られては、元々火神といたのは自分なのにまるで立場がない。完全に忘れられているようだ。


「ちょ、火神っち!」
「あ? お前まだいたの?」


だから悔しくて口を挟んだのにそんな言葉でバッサリ切られ。しかもそれを言ったのは火神ではなく青峰で。
これには、普段温厚な黄瀬がキレるのも仕方のないことだった。


「いたのって、何言ってんスか青峰っち!! オレが火神っちと先にしゃべってたんスよ!! 横取り止めてほしいっス!!」
「は? 先とか関係ねーし。第一横取り上等だろ。テメーもキセキの世代の1人なら簡単に横取りされてんじゃねーよ。そんなんだからバスケもオレに勝てねんだよ」
「ぐ…っ! 今はバスケは関係ないっス!!」
「負け惜しみすんなって」
「負け惜しみじゃないっス!!」


突然言い合いを始めたふたりに黄瀬に代わりはじかれた火神は首を傾げた。
まさか自分を取り合っているなどとは露ほども思わずに、つーかさっさと黒子んとこ行けばいいのに…と、ふたりが聞いたら怒られそうなことを考えながら行方を見守っていた。
火神は、青峰もまた、黒子に会いに来たものだと思っているのだ。


「てゆーかバスケ以外でオレが青峰っちに負けてることなんてないっスもん!!」
「言ってくれるじゃねーか。火神関係でお前に負けてる気しねえけど?」
「だっていきなり背後からキスとかずるいっス!! やり方が卑怯っス!! 強姦! この強姦魔!!」
「はぁ? 馬鹿じゃねぇのお前。黄瀬、テメェは本当に青いなぁ」
「…なんかすごくむかつくんスけどッ!!」


しかしいつまで経っても鎮火しそうにないその喧嘩に、せっかく今日はもうすぐテストだということでいつもより早く部活が終わったのにこんなくだらないことで時間を潰したくないもう本気で面倒くさい、と、加熱し続けるふたりを残し火神はそろりとその場を後にすることにした。最早ふたりの会話など耳に入っちゃいない。
そして、こんな奴らに目をつけられてるなんて黒子も大変だな、そんな要らぬ心配までしていた。



ようやく黄瀬と青峰が気付いた頃には、とっくに火神の姿は見えなくなっていた。



END
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