復活

□企画
2ページ/2ページ


dolce Valentino




さて。
今日はバレンタインですー。

…って言っても、こんなむさっ苦しい男ばかりの集団内じゃそんな愛らしいイベントなんて絶対スルーだと思っていた。

しかし。

意外や意外、幹部全員その存在は知っているようで、朝起きたら早速チョコレートを貰った。
…ああ、そう言えばここには見た目は変態オヤジ、中身は変態乙女(本人談)なオカマがいるから別に意外でも何でもなかったか。なるほど、チョコをくれたのもオカマだった。…食べたくないですー。

…話が逸れましたが、ミーが何を気にしてるって、それはあの堕王子のチョコの行方。
まあミーは別にチョコが好きではないし、ましてやあのセンパイが誰かにあげるとは思えないので(寧ろ集られそうだ)用意なんてしてないとは思いますが、しかしミーは欲しいのだ。センパイからのチョコレートが。
なので、先手必勝、というか、直球勝負。


「センパーイ。チョコくださーい」
「ん」
「…え、毒入りですか」


センパイの部屋へ乗り込んだら待ってましたと言わんばかりの満面の笑みのセンパイにずい、とチョコを渡された。正確には、まだ中身は確認していないので箱を、だが。
とにかく、あまりの予想外な出来事に思わず口から本音が漏れたミーが蹴っ飛ばされたのはいつものことだ。


「だって三倍返しじゃん、ししし、手ぇ抜くなよ」


ナイフをトランプのように広げギラリと切っ先を光らせながら、センパイは転げたミーに楽しそうに言った。
その言葉に納得。どうやらセンパイのお目当ては1ヶ月先のイベント、ホワイトデーのお返しらしかった。
あのオカマめ、そこまで浸透させてるなんてもうさすがとしか言いようがない。てゆーかオカマにも三倍返しなのだろうか。じゃあ慎んでコレは返しますー。

…と、それは置いといて。
理由はどうあれセンパイからチョコを貰えた事実が嬉しくて内心喜んだのも束の間、受け取った箱の包みはさっき蹴飛ばされたにも関わらず、懲りずにまた不満を口にしてしまうほどにボロボロだったのだ。
包まれてはいるが包装紙はぐしゃぐしゃだし、何よりセロハンテープを剥がした部分の紙が剥げてしまっている。確実に一回開けたな。…食べたのか。我慢できずに食べたのか。なのに三倍返し求めるとかどんだけ堕王子。
そんなミーの愚痴に再び繰り出されたセンパイの、今度は右ストレートを素早くかわしつつ、


「ミーそっちがいいですー」


センパイの後方に積まれた箱を指差した。
アレは恐らく他の幹部にあげるやつだ。わかってはいたがミーにだけじゃなく全員に用意されていたことが悔しくて、何なら全部ミーが食べてやろうか、そんな子供じみた考えすら浮かんだ。


「お前のはそれ! …って捨てんな!!」


ボロボロの箱を投げ捨ててキレイに包装されたままの箱に手を掛けると後方からセンパイのナイフが飛んできた。ぐさり、とカエルに刺さるけど、痛いのはカエルなんかではなくミーのココロだ。


「ミー食べ掛けなんて嫌ですー。ちゃんと新しいのくださーい」
「食ってねーし! いいから王子の言うこと聞いてさっさと開けてみろよ!」
「……ん?」


刺さったナイフを抜きながらセンパイの言葉に耳を傾ける。
何か違和感。
センパイが普通の人とは違い常に異常なのは承知の上だが、それを抜きにしても何だか変だ。やけに急かしてくる。


「…今、食べなきゃダメなんですかー?」
「そーだよ。食え、っつーか開けろ」
「……」


食べろ、ではなくて、開けろ。
これは何か裏があると見た。


「…じゃあ、いただきますー」
「ん」


隣でじっと見守るセンパイにそう告げると、センパイは満足気に笑った。
その笑顔に、ミーのココロの痛みも何処かへ吹き飛んだ。

…ああ、本っ当にムカツキますねーこの堕王子。そんな笑顔を見せられたら、もう従うしかないじゃないですか。

それがミーにとって良いことなのか悪いことなのかわからないけど、こんなに嬉しそうにセンパイが笑ってくれるのならそれに乗ってみるのも悪くない気がした。

そして既に剥がれ掛けの包装紙をキレイに剥がし、現れた白い箱の蓋をそっと開けた。


「………」


…途端、絶句。

だって、そこに入っていたものは、


「お前好きだろ、甘い方が」
「………」


入っていた、ものは。


「…はい。今、好きになりましたー」


ミーの想像を、遥かに超えていたから。


「三倍返しだからな、忘れんなよ」
「三倍と言わずミーの総てを今すぐセンパイにあげますー」
「………いらね」


ミーが素直なキモチを伝えるとセンパイは照れ隠しなのだろう、ミーに背中を向けてしまった。
そんなセンパイが可愛くて、後ろから抱きつき耳元にそっと囁く。



『だって、ミーのが本命でしょう?』



やっぱりセンパイはそっぽを向いたまま、知らね、と一言呟いた。









センパイがくれたほろ苦いガトーショコラ。
その上にホワイトチョコで書かれたメッセージ。
歪だけど、心の込もった愛の言葉。


―amorevolmente―


甘い甘い甘い、チョコレート味のラブレター。



fine.








恋の旋律様の企画参加小説です。
お題は『砂糖づけのラブレター』…。
添えていな、い。

初めての企画参加で難しかったけど楽しかったです^^
ありがとうございました!
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ