青あらし
□第5話
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昨日はヒドイ目に遭った…。
メイド服着たままべーったり御園の隣に居て挙げ句の果てにちゃっかり写真まで撮られて(先に寝た俺が悪い)。おまけに(忘れてたけど)いつか(一方的に)約束させられた寝る前にキスするってやつ実行されて…。
満足そうな御園とは裏腹に、俺は複雑な思いで破裂しそうだった。
親友の光司朗にはホテルに連れ込まれそうになるしただのクラスメートだと思ってた御園にはキスされるし。…そーいえば律ちゃんも俺のことが好きとか言われた記憶が…。
ちょ、どーなの俺! いち男として同じ男からばっかりモテるって!
「…はぁ〜……」
最近の複雑な思いが全部詰まった盛大な溜め息が漏れる。
つか昨日の一件の原因であるあのホストクラブってどんなとこなんだろ。結局御園教えてくんなかったし。
知りたい…けど知らない方がいいような気がする…。俺の第六感がそう叫んでる。
………
…………
……………
………だぁ〜〜〜っもう!!!
考えんのやめやめっ! 何か考えれば考えるほど混乱するし! つか悪い方にばっか思考が動くし!
御園は恩人、光司朗は親友、律ちゃんは兄貴分! 誰に何を言われようと、俺がそう思ってれば問題ないっ!!
──よし、すっきりしたとこでねぼすけの御園を起こすかな! あぁ俺ってばマジ大人。なんて物分かりがいーんだ!
寝起きで冴えないはずの頭を朝からフル回転させて導き出した答えにひとり満足する。そして気合いを入れるために頬をパン! と両手で叩き、隣で眠る天使の寝顔をした悪魔に挑んだ。
「おい! 御園起きろよ。そろそろ起きないと遅刻だぞー?」
呼んでみても起きる気配はない。
「…御園さーん? 起きてー遅刻はいやー」
今度は少し揺さぶりながら声も大きくしてみた。…しかし起きない。
「……」
実はもう起きてんじゃねーかって思う。いつか騙されて引きずり込まれたこともあるし。
そんな苦い思い出を脳裏に浮かべた俺は、またそんなことされたんじゃ堪らないっつーことで御園はほっといて先に支度を始めることにした。
……しかし。
「……御園?」
俺の支度が終わっても、未だに御園は起きる気配がなかった。それどころかうんうん唸って、まだ夢でも見てるみたいだった。
え、マジで寝てたの? 嘘寝じゃなく?
しばらく疑いの眼差しで見てたけどそれでもやっぱり起きない。
…っつーか、さっきは気付かなかったけどなんか変だ。寝てるっつーか、これじゃまるで起きたいのに起きれないみたいな…。
……ん? 起きれない?
あれ、そーいえば今の御園のこの状態って、なんかに似てる。起きたいけど起きれない、うんうん唸ってる、そして、…あれ? ちょっと汗ばんでない? そーいや心なしか顔も赤い気が…
………
「えっ!!」
ちょちょちょちょちょ! えっ、なに……えぇ?!
嫌な予感がしてそろりと御園のおでこに手を当てたら、そりゃもー熱いのなんのって! 思わず叫んじまった。
そう、御園……熱ある!! しかもかなりの高熱!!
「御園? おい、大丈夫かよ」
もう一度軽く揺さぶってみる。
「んー……、愁…?」
「そう! 愁! わかるか?!」
「わか………、んない…」
「えっ!」
わ、わかんない?! わかんないって、わかんないほど頭が回らないってことか?!
「御園〜! しっかりしろって! ほら、俺! 梶原愁!」
「かじ…はら、しゅ……?」
「ん!!」
なんとか御園を正気に戻させたくて必死に話し掛ける。だって人を認識できないとかかなりの重症だろ! やばいって!
「な、わかる? 俺、愁! 御園の可愛いメイドさん!」
「んー……」
もう俺が混乱してきた。自分で何言ってんのかわかんねぇ。だけど、それだけ必死ってことで!
「可愛いメイドさん…もっと近くに寄ってくれたらわかるかも…」
「えっ?」
ようやく御園が言葉らしい言葉を発した。言われた通りに俺は顔を近付けてやっ……
……たのが、間違いだった。