たんぺん

□距離感(一十木)
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部屋の中

あらかじめ、適度なスペースにいる俺達

当たり障りのない距離感

この距離感を近づけたらどうなるだろうねぇ

そんな好奇心で
俺が一歩踏み出せばシズちゃんは一歩後ずさる

この均衡は変わらないんだね

「ねぇシズちゃん」

「あ?なんだ」

「今の距離よりも俺が近付いたら君はどうするの?」

「…さぁな」

「シズちゃんから近付こうって気は?」

「今んとこねェよ」

興味無さげに煙草に視線を向けた素っ気ないシズちゃんは普段と変わらない

今よりも近付けばどうなるだろう

顔を見れば気に入らないと歪み合う感情

これはきっと君だからこそ感じる感情だね

だからこそ
愛しくて仕方ない

この感情と、この距離感さえもが

シズちゃんっていう怪物の普通の人間にはない何かが
堪らなく愛しいんだろうね

「なに笑ってやがる」

「何が?」

「…胸糞悪ィ…。手前ェは昔から訳が分かんねェんだよ」

「俺もだよ。でも、だからこそ…」

俺は言葉を区切った

そして訝しげなシズちゃんの顔を、歪んだ笑顔を張り付けたまま見つめ

「俺は君が嫌いだよ」


『嫌い』と言う
これは実に俺らしい『好き』の感情なんだよ


だから受け止めてくれたら嬉しいかな?


…今日も結局
シズちゃんと距離感は縮まらない、か

でも

このままが、俺達らしい『嫌い同士』だね

何度も言おう

俺は誰よりも誰よりも

君が嫌いだよ

ね、シズちゃん?



END

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