たんぺん
□いつもと違うのは(朱聖)
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取り立てが終わった、いつもの帰り道。
いつもと違うのは、トムさんがいない事。雨が降ってる事。そんで……
「どーしてこんな所にいるのかなぁ…臨也くんよぉ」
雨音に負けないでかい声で言ったつもりだけど、あいつは何の反応もしねぇで電柱の根元を見つめたまま。
人違いなはずはねぇ。真っ黒な傘から覗く横顔は確かに臨也だ。
「シカトか…この野郎…」
俺は持っていた傘を投げ捨て、近くにあった標識を引き抜いた。
「い〜〜〜ざ〜〜〜やぁぁぁ!!!」
標識を持ったまま走って、臨也を殴ろうと振りかぶった。それでもこいつは微動だにしねぇ。
そこで俺はやっと臨也の見ているものに気が付いて止まった。
「…………猫…?」
真っ黒な……どこか臨也に似た猫。俺がすげぇでかい音で近付いてきたっていうのに、この黒猫は逃げ出さず、臨也を威嚇してやがる。
「威嚇されてんのかよ」
「まぁね」
やっと臨也が答えた。
黒猫のせいで怒りが冷めた俺は標識を地面に突き刺した。多少場所は変わっちまったけど、大丈夫だよな。
「んで、何やってんだよ」
「んー、俺が退いたらこの猫濡れちゃうなぁって思って」
「だったら連れて帰るなりすりゃ良いだろ」
「うん、そうだね。それじゃぁよろしく頼むよ、シズちゃん」
「はぁ!?」
こいつは何言ってやがんだ。俺は連れて帰れって言っただけで、連れて帰るなんて一言も言ってねぇ!!
「手前が連れて帰れ!!」
「俺、明らかに嫌われてるじゃん」
「……だからって何で俺が…」
「俺みたいな猫、とか思ったでしょ?」
「お、思ってねぇ!!」
い、いい今は思ってなかった…っ///
「俺みたいな猫が飼えるなんて本望じゃん?きっとこの猫だって喜ぶよ」
「お前に似てるからか?」
俺の言葉に臨也は、いつもと違ってムカつかない笑顔で笑った。
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